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お侍さんのお話

百足のお話

作者: 横山

 昔々、あるところに旅をしているお侍さんがいました。

 少々懐具合が寂しかったお侍さんは、次の村で何か仕事が無いかと思いながら歩いていました。

 しばらくして村に着いたのですが、何かおかしい、いやに静かで人の姿がありません。

 目に付いた家の戸を叩いて見ても、中で物音はするものの、出てくる気配はありません。

 さらに歩くと一軒のひどく壊された家と、その前に花を供えているおばあさんがおりました。

「もし……」

 声をかけるとおばあさんはびくりと振り返り、お侍さんの姿を見て胸をなでおろしました。

 旅をしている事を話し、この村では何が起きているのかをたずねると、立ち話もなんだからと家に迎えられました。

 着いた所は村で一番大きい村長の家。おばあさんは村長の母親でした。

 そこでお侍さんはこの村が妖怪に襲われている事を知りました。

 突然現れたその妖怪は長い身体を持ち、その身体を振り回して家を叩き壊し、中の村人を食い殺して去っていったとのこと。それからは数日置きにやってきて、外にいる者や、誰も外にいないときは最初のように家を壊して中の者を食っては去っていく。

 もちろん村人も黙って身を潜めていたわけではなく、若い者が集まって妖怪を退治しようとしたものの、皆打ち払われて、その内の何人かを腹に収めて悠々と帰っていったと、

「わしらには行く当てもないが、お侍様は旅のお方。なるべく早く、やつが来る前に村から出たほうがいいでしょう」


 その夜。

 妖怪がやってくるという方角に一番近い屋根の上に、一人のお侍さんが腰掛けていました。

 村長の母親が握ってくれた大きな握り飯を二つ、ぺろりとたいらげ三つ目に手を伸ばそうか考えていたそのとき、山がざわりと揺れました。

「来たか」

 お侍さんは握り飯を屋根に置き、じっと目を凝らします。空には雲ひとつ無く、ようやく顔を出した半月のおかげで木々の間から妖怪の体が見え隠れするのを見ることができます。

大蛇うわばみか?……いや、これは」

 妖怪は村に近づくと高い木に這い登り、頭をこちらに向けて見渡して、屋根の上のお侍さんを見つけたとたん、ざわざわと節々をくねらせて襲い掛かってきました。

 屋根から飛び降りるとき、さっきまでお侍さんがいた所でガチリとあごが閉じられる音がし、獲物を逃したと気付いた妖怪は持ち上げた上体をお侍さんに向けてなぎ払います。

 地面をこする様に向かってきた妖怪を飛び越しがてら、抜き放った刀で切りつけてみるもがちんと硬い外装に阻まれるのみ。

 勢い余った妖怪は隣の家にぶつかり、家を半壊させて一度動きを止めました。

 その後すぐにまた動き出し、壁土や所々の木材に埋もれた上体を節々に生えた脚で引きずり出します。

「こりゃ大百足むかでか……」

 どこかのんきに聞こえる声で、お侍さんがつぶやきました。

 がちぃん

 気の出かけているこの隙にと節と節の間を刀で突こうとしてみても全く通る様子はありません。

 大百足は気にも留めずに体をずるずる引き出しています。

 ようやく頭を取り出すと触覚で目に付いた土壁の欠片を取り払い、ようやくお侍さんに向き直ったかと思えば真直ぐに突っ込んでくる大百足、動きを見計って飛び上がりざまに片方の触覚を切り落とし、お侍さんは大百足の背を踏み台に元いた屋根へと戻りました。

 振り向けば、底光りする目でこちらを睨みつける大百足と目が合いましたが、ざわざわとそのまま山に帰っていきました。


 翌日、お侍さんは隣の村はずれにある山寺を訪ねていました。

 昨夜大百足を追い払ったことを村長から感謝されたものの元を絶った訳で無し、奴を倒す腕がある訳で無し、さりとてこのまま村を去るほど薄情である訳で無し、悩んでいた所に子供の声が聞こえてきた。

「隣の村には徳の高い和尚さんがいるんだって」

「何でも知ってるんだよね」

「村はずれの山寺に住んでるんだよね」

 それを聞いたお侍さんはそれだけすごい方なら大百足退治の方法も知っているだろうと村を出たのでした。

 はたして、人が住んでいるとは到底思えないぼろぼろの寺にその人は居りました。

 これまたぼろぼろの袈裟をかけ、頭には不老帽をかぶっています。

 そして、ぎょろりとその目をお侍さんに向けると、

「なにか御用ですか?」

 できるだけ丁寧に聞こえるよう言いました。


 夕暮れ時に無事百足の村にたどり着いたお侍さんは、村長に弓を用意してくれるよう頼みました。

 村の寺から持ってきてもらった弓に数人で弦を張っていると、外から大きな音が聞こえました。

 今までは数日おきにしか来なかったからと油断していた村長たちは真っ青になって縮み上がります。

 その中でお侍さんは弦を何度かはじくと頷いて、弓矢を持って外へ出て行きました。

 やたらめったらに暴れている大百足を視界におさめると、和尚様から聞いた通り先端につばを吐きつけた矢を弓につがえ放ちます。

 矢は弧を描いて大百足の左目に刺さりました。いっそう激しく暴れる大百足にもう一度矢を放ちます。

 両目に矢を受けた大百足はぴたりと暴れることをやめ、山へ戻っていきました。


 翌朝、村人とともに山へ入ったお侍さんは二本の矢じりが溶けた矢と、そばで死んでいる一匹の小さな百足を見つけました。

 手厚く弔うように言ったお侍さんは、村中から集められたお礼のうち僅かながらの路銀と村長の母親が作った握り飯、竹の一節につめられた酒を受け取ると、村人に見送られながら再び旅を続けました。

村で和尚さんの話をしていたのと山寺に住んでいる振りをしていたのは鬼です

お侍さんは気付いて村でもらったお酒をお礼として山寺に置きに行きました

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