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8話 はじめてのおつかい(デートイベント)-1-

 朝日が差し込む部屋の中で、今朝も拓海は未だ夢の中。

 この羨ましくも、おもしろおかしい生活が始まってから一週間。

 そう、全てはあの『大停電』の夜から始まったのだ。幾ら日本人の技術力が優れているからと言って、あのように完成された美少女メイドロボットなどは造れないであろう。

 『メイド』それは世の庶民男性にとってみれば、夢のまた夢。

 拓海は、そんな事をあっさりと成し遂げたのだ。否、成し遂げたと言うには些か意味が違うかもしれない。

 正確には『成し遂げてしまった』だろう。

 しかも、画面の向こう側『二次元世界』から現れたなどという非現実的な出来事。

 まったく、こんなとんでもない事態に遭遇してしまっていると言うのに拓海は、どうしてこんなにもアッサリと現実として受け止められるのだろうか?いや、夢を夢で終わらせたくないからなのかもしれない。

 拓海にとっての『現実リアル』は何処にあるのやら――


 

◇◇ ◇◇ 



 時刻は朝の七時三十分。部屋には目覚まし時計のアラームがこれでもかと言わんばかりの大音量で鳴り響いているというのに、ベッドの中にうずくまっている拓海はピクリとも動きはしない。毎度の事ながら、枕元で目覚ましが大音量を撒き散らしているというのに微塵も起きることをしないとは、鈍感なのかアホなのか……

 まったく、どうしてこのような奴がイケメンなのかと『神様』は人類の進化の過程をどこかで誤ってしまったのではないのか?

 そして、結果がこれだ……

 もはや『イケメン』というより『ダメメン』と言いたいくらいである。

 未だ鳴り続けるアラームを止めたのは意外な人物


「あぁ、もう!うるさい、うるさい、うるさい!」

 バタンっと、勢い良く扉を開け部屋に入って来ては枕元の目覚まし時計を力強く叩きながら声を荒げていたのは晴菜であった。

 晴菜は目覚まし時計に手を添えたまま、視線を枕元から布団にうずくまり爆睡している拓海へと向けると


「拓!起きなさいよ!」

「……うぅ?……ん~」

「って、寝るなぁ!」

「……モモ……ぉ……」

「お?」

「……ぉ、お茶……」

「お茶って……ど、どんな夢を見ているの?それよりも、早く起きなさいよ!」

「……ん?ふぁ……あぁ、晴菜か」

 寝ぼけ眼で晴菜に視線を返し、緩い口調で拓海は言う

「あんたねぇ……よく、あんだけの大音量で寝ていられるわね。しかも、枕元で鳴っているって言うのに――」

「ふぁぁ……まっ、起きたからそんな事はどうだって良いだろ?」

「なんで、アレで起きずに私の怒鳴り一つで起きるわけ?」

「あんな機能を果たさない目覚ましなど、所詮はただの時計だ」

「機能を果たさないんじゃなくて、機能を活かしきれてないんでしょうが!」

「晴菜の声で、すっかり目が覚めたぜ」

「なに?大音量の目覚ましより私の声の方がうるさかったとでも言いたいわけ?」

 顔をしかめ不満気に言い返す晴菜に拓海は

「そこまでは言っていないが、少し耳に響いた程度だ」

「あぁ、そう……」


 流石の晴菜も拓海の返答には呆れ返り何も言葉が出なかった。

 拓海は否定しているように言っているつもりだが『響いた程度』などと言っている時点で肯定しているようなものである。これをわざと言っている訳でもないというのだから、たちが悪い。

 拓海はあごに手を当て軽く首を傾げると、少し何かを考え込むように悩むと思い立ち晴菜に視線を向け口を開く


「なぁ?」

「なに?」

「今日って、何曜日だっけ?」

「日曜日よ」

「日曜って学校あった?」

「無いわね」

「そうか、休みか――」

 そして、しばしの沈黙が訪れ

「……」

「……」

 数分後、先に沈黙を破ったのは拓海であった

「なら、何で来たわけ?」

「はぁ!?なに?もう忘れたの?」

「何かあったか?」

 晴菜は落胆とした様子で深く溜息を吐くと

「この間、拓に作った料理……結局、残したでしょ?」

「あぁ、あの時のことか……って、いや!あれは誰が食べても完食出来ねぇよ!しかも、モモの分もあったろ?」

「いやしく二人分も食べるからよ」

「絶対、どちらをとっても結果は変わらなかったと思うが……で、それと何が関係あるんだ?」

 拓海のアッサリとした返答に晴菜は

「はぁ……どうやったら、一週間も経っていないことを忘れられるのか」

「だから、何だよ?」

「……罰よ」

「罰?食べなかったことに対するか?」


 何故かそういうところは察しが良い拓海。

 確かに『食べきれなかった』ことに対する罰なのは間違いないが、それが何なのかを忘れていた様子であった。

 拓海は晴菜に再び聞き返すと


「――で?その、罰というのは?」

「えっ?……え~と、それは――」

 そう言いながら、何故か頬を紅く染め上げ恥じらいながら口篭る晴菜

 そんな姿を不思議に思いながらも拓海は、お構い無しに

「だから何だよ?」

「え~と……あっ、あれよ!この間に料理した時、食材全部使い切っちゃったじゃない?」

「単に作りすぎただけだろ?自業自得だ」

「うっ……」


 人様から御飯を作って貰っておいて『作りすぎ』挙句の果てには、作り手に『自業自得』呼ばわりするとは性格うんぬん以前の問題である。

 しかし、晴菜も作りすぎてしまったことに関しては否定出来ず言い返す言葉がすぐに浮かんでこないというところが悔しいと思ってしまう。


「で、でも!結局は残した拓が悪いんだからね!」

「いや、だからさ……」

 すると、晴菜の顔の頬はさらに紅みを増し

「だ、だから今日は……か、かぃ――」

「かい?」

「き、今日は快晴で良い気持ちわね!」

「はぁ?」


 拓海は晴菜の言葉に疑問を抱きながら不思議そうな面持ちで言うが勿論、晴菜の本当に言いたい事はこんなことではなく『買い物』と言いたかったのだ。普段は強気な晴菜だが、何故かいつもこういった面と向かって話すような場面となると、なかなか言い出せなくなってしまう。

 休みの日に二人で買い物へ行く。これは『デート』に誘うような物だからだ。

 何も普通に『買い物』として考えれば良いだけの事を余計に解釈してしまっているが為に晴菜は変な意識を持ってしまっているのだろう。

 これでは、どちらが罰を受けているのかすらも解からなくなりそうである。

 しかし、何故に拓海のようなどうしようもない野郎の前に立っただけでこうなってしまうのやら。

 彼には、勿体無いくらいであるというのに……

 当の拓海は微塵も晴菜の仕草や行動にすら疑問を持っていない。付き合いが長いからなのか、彼にとっては晴菜の存在が『当たり前』となってしまっているのだろう。

 まったく、どこまで鈍いやつなのか

 今度こそはと、言い出そうとした晴菜を尻目に拓海は何か思い出した様に口を開き


「えっと……拓、今日ね――」

「あれ?そういや、モモは?……ん?どうした?」

「ぃ、いや……な、何でもないわよ!」

「なんで、逆切れしてんだよ」

「……人の気も知らないで」

 小声で呟く晴菜に拓海は

「多分、朝飯でも作ってんのかもな?腹も減ったしな、下に行くか。そんじゃ、晴菜起してくれてありがとなぁ」

「あっ、ちょっと!」


 部屋を出て行く拓海の背中に向って言う晴菜だが空しくも声は届いていなかった。

 悪気が合って言っている訳でもないので責め立てられない。

 少しは空気を読めと言いたくもなってくるが、今の拓海にそんなことを望んでもそれは限りなく無理な話かもしれない。これをバーチャルに入り浸ってしまっているせいと言い難いが、少なからずに影響はしているであろう。

 なんせ、二次元世界では常に場面ごとで選択肢が用意されているのだから。

 用意された返答を選べば良いだけ出し、悩めば攻略法を見てしまえばいいだけの話。

 人生に攻略法などはありゃしない、そんな都合のいいことがあるのなら是非ともご教授願いたいものである。

 しかし、今の拓海は二次元すら手の届く距離に居る訳で彼はモモが現れてから一切、パソコンの電源を入れていない。もう、その必要は無いからである。

 もしかしたら、電源をつけた途端にこの現実が夢で終わってしまいそうな気もしていたから……

 そんな気もしたからなのかもしれない。

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