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7話 選ぶならドッチ?

 拓海は晴菜連れて家に上がると、玄関先にはさっそくと美味しそうな香りが漂ってくる。

 リビングに入ると、テーブルには出来上がったモモ特製料理。

 しかし、その料理を見た晴菜の反応は


「……な、なにコレ?食べ物?」

 当然の反応である。


 晴菜の視線の先にあるのは例の如く調理された、まるで原型も何も無い異物とも言い様のある料理。

 むしろ、見た目からすれば『料理』と言えるのかどうかも謎であるのだが……

 恐らく『魚だった』であろう黒こげのナニカ。

 魔術でも行っていたのかと言わんばかりにボコボコと泡を立て異臭を放つスープっぽいナニカ。

 テーブルの上には、まるで殺人料理とも言えそうなモノ達が並べられていた。

 しかし、これ等の料理がシェフ顔負けの絶品料理だとは拓海しか知らない。

 そんな事などは、勿論知るわけもない晴菜は


「……これを毎日、食っているわけ?」

「あぁ、そうだ。美味いぞ?」

「いくら、底無しに貧乏だからと言っても……これは流石に――」

「食えばわかる」

「とても食べれそうには見えないわよ!」

「そうか?こんなに美味いのにな――」

 引き気味の晴菜を余所に、拓海は平然とした様子でテーブルの料理を摘み食いしていた。

「拓……空腹のあまりに幻覚とか見ているんじゃないでしょうね?」

「そんな事はないぞ」

「わかった!やっぱり、私が作ってあげるわ!」

「いや、待て……既に夕飯はあるだろう?何も無理に作らなくとも――」

「作ると言ったら、作るのよ!」

「なぜにそうなる……」

 脇にチョコンと座っていたモモが拓海に疑問の声を向け

「拓海さん、あの方はどちら様なのですの?」

「ん~、あいつは榎本晴菜と言ってだな。俺の幼馴染みなんだが」

「晴菜さんなのですか」

「まぁ、あまり気にするな。要するにただのお節介なやつということだよ」

「お節介とは、どういう意味なのですの?」

 学習型のロボットだけあって、知らない部分は多少あるらしい

 拓海はモモの問いに答えると

「モモにわかるように言うと、世話をするのが大好きということか?」

「では、モモも『お節介』なのですの?」

「ん~……ちょっと似てるが、モモと晴菜では意味合いが大きく違うな」

「はぅ~、難しいですのぉ」

「そうだな。小さな親切大きなお世話ってところか?」

「誰がお節介よ!」

「がはっ!」


 どこで話を聞いていたのか、キッチンからオタマが飛んで来ては拓海のひたいに直撃する。

 金属部分が見事に直撃した拓海は、若干涙ぐみながらひたいを擦りつつ


「いてぇ……お前は地獄耳かよ」

「悪かったわね、お節介で!私だって仕方なくしてるだけなんだから!」

「仕方ないと思っているなら無理するなよ……ぐはっ!」


 今度は食材に使うジャガイモが直球ストレートに飛んで来ては、またも顔面に直撃してしまう。

 なんとも見事なコントロールである。


「そ、そのくらい察しなさいよ!?このバカ!」

「……いてぇんだよ、マジで……っていうか、何で俺が怒られんの?」

「そんなの自分で考えなさい」

 ふてくされる様に言い放つ晴菜をよそに

「拓海さん、大丈夫なのですか?」

「あ、これくらいなら大丈夫だ」

 心配したモモが拓海に声をかけていた

 そんな二人を見て妙な嫉妬心を覚えた晴菜は

「出来たわよ」


 そう言って持ってきた晴菜の料理は、実に色鮮やかで拓海の好みを知っている晴菜にしか作れない料理でもあった。どれもこれも、拓海が好物のものばかりでる。

 晴菜は、これでもかと言わんばかりに料理を出し誇らしげな表情を浮かべると


「さぁ、どうよ?」

「久し振りに晴菜の料理見たが、相変わらず凄いな……っていうか、何かいつもより量が多くないか?」

「き、気のせいよ!」


 モモの存在に少しばかり嫉妬した晴菜は、いつも以上に気合を入れて作ってしまい結果、予定して買ってきた食材より少し多くなってしまっていたのだ。

 晴菜の料理を見たモモは明るい表情を浮かべ


「うわぁ~、凄いですの!どれも美味しそうなのですの」

「確かに、『料理だけ』は上手いからな」

「なにが料理だけよ?運動だって得意だし、怠け気味の拓には言われたくないわね――」

「怠けてなどはいない!しばし、力を温存しているだけだ!」

「それを世間では『怠け』と言うのよ!」

「減らず口を言う――」

「どの口が言ってるの?減らず口は拓の方でしょうが!」

 二人の会話を止めるように横でモモが

「はわわわっ、ケンカはいけないのですの!」

「あ、モモ?」

「ふぅ、私まで少し熱くなっちゃったわね」

「仲良しが一番なのですの♪」


 モモの無邪気な言葉に調子を狂わされた二人は冷静を取り戻すが、晴菜だけはやはり煮え切らない様子であった。

 こんなに簡単にモモの事を認めてしまえば、自分は一体なにをしていたのかと。そんな疑問すらも感じていた。

 晴菜は改めて拓海に視線を向けると


「それで?どうするの?」

「どうするって?」

「どっちの料理を食べるのよ?」

「……えっ?」

「拓海さん、お料理が――」

「ちょ、モモまで?……えっ?なにこれ?」


 冷めかかっている料理を気にして、モモは潤んだ瞳を拓海に向けていた。

 拓海の前には、原型を留めていない異様な『料理』という物体。しかし、味は絶品である。もう一方、隣には久しくお目にかかった晴菜特製フルコース。色鮮やかで拓海好みのバリエーションにとんだ料理である。

 そして、手料理が盛られた皿を持った晴菜とモモが拓海を見つめては


「どっちなの?」

「どちらなのです?」

 両者揃って、拓海の顔に押し向けながら二人同時に言う。

 一方の拓海は

「えっ?いや……そう言われてもだな……」

 返答に困っていた


(なんなの、この展開は……また変なフラグが来た?)


 ツンデレな幼馴染みと美少女メイドロボットから手料理を迫られるとは、何とも羨ましい以前に、完全にギャルゲー的なシチュエーションである。

 そして、追い詰められた拓海の脳内には、やはり三つの選択肢がまたしても思い浮かぶ。



 1『モモの料理を食べる』

 2『晴菜の料理を食べる』

 3『両者の料理を食べる』



 恐らくこの展開は、分岐ルートの選択肢であろう。

 勿論、1『モモの料理を食べる』を選べば必然的にモモルートなのだろう。

 そして、2『晴菜の料理を食べる』を選べばこれも晴菜よりになるのかもしれない。

 だが、これが仮想世界『ゲーム』での展開だったら迷わずに『1』を選んでいたはずである。

 しかしだ、何度も言うがこれはリアル。現実世界なのだ。

 故に、やり直しは効かない。かと言って、3『両者の料理を食べる』を選んだとしよう。これは色々と無理があるというものだ。だが、何故にこんな選択を思いついてしまったのか、もっと他に無かったのだろうか?

 例えば『この場から逃げる』と言った究極の選択。

 恐らく、これは有無を言わさずに選択してしまった時点でBADEND確定だからだろう。ゲーム慣れしてしまっている拓海だからこそ、瞬時に判断しこの選択を思いついたのかもしれない。

 しかし、そんな事を思ったところで何の解決にもならず――


「まさか、ここまで来て食べないとか言わないわよね?」

「はぅ~、お料理が冷めますですのぉ」

「うっ……」


(どうする?どうすれば……あぁ、ゲームの神よ……俺に力を!)


 迷いに迷った拓海は、とんでもない事を思いつき勝手に架空神を創り上げてしまっていた。

 まったく、ゲームの神とやらが居るのならば是非、拝んでみたいものである。

 結局に拓海が選んだ答えとは――


「えぇい!こうなったら、とことん食ってやるよ!」


 3『両者の料理を食べる』であった。

 最初から勢い良く食べ始めた拓海であったが


「ちょっと!そんなに、がっついたら――」

「わぁ、拓海さん。凄い食べっぷりなのです」

 勿論、スタートダッシュが早ければ失速するのも早く

「……うぷっ」

 食べ始めて十分足らず、既に拓海の胃袋は限界が来ていた。

「今日は少し多くなっちゃったので、まだまだ沢山あるのですの♪」

「私も食材を余らすと悪いと思って作ってたら、予想以上に多くなったわ」

「…………ま、まだ、あんのかよ……」

 拓海が持つ箸は、既に止まりかかっていた

「せっかく、作った料理を残したりはしないわよね?」

「晴菜、顔が怖いぞ……」

「モモ、昨日より頑張ったなのです!」

 見てくれは全然変わりないのに、一体どの部分を『頑張った』と言ったのかなどは敢えて触れないでおいた拓海である。

「何も、残ったら冷蔵庫にでも入れておけば――」

「言うなら残すこと前提でなく、食べることを前提に言うこと!」

「そんな……殺生な……」


 どうやら、拓海の選んだ選択で分岐ルートは回避されたもの彼自身にとってこれが正しい選択だったのかなどは誰も知らない。だが、恐らくは『1』を選んだとしても『2』を選んだとしても、結局は眼前に用意されたどちらかの料理をたらふく食わされる事になっていたであろう。

 妙な出来事から起きてしまった、この二次元美少女メイドとツンデレで幼馴染みな女の子との『おかしな関係』

 幸せだったと思っていた拓海の生活は、これからどうなって行くのやら。

 そして、拓海と晴菜とモモの行く末とは?

 何やら騒がしい日々が続きそうな予感である――

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