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28話 ロードメニュー

「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ」


 膝に手を当て息を切らしながら呟く拓海は昇降口付近まで来ていた

 拓海がぼやいていると突然に声が掛かる


「そんなところで、なにやってんのよ?」

「あっ、晴菜」


 振り向いた先に居たのはスポーツバックを抱えた晴菜の姿


「というか、まだ帰っていなかったの?」

「まぁ、災難に巻き込まれてだな」

「はぁ?」


 拓海の言葉に疑問を感じる晴菜


「晴菜こそどうしたんだ?」

「私は部活が終わったから帰るところよ」


 そう言いながら晴菜は抱えているスポーツバックに目配りする


「そうか」

「よかったら一緒に帰らない?」

「別に構わないが」


 そう言って拓海は晴菜に背を向け隣に居るモモへ視線を向ける


「じゃぁ、行くぞ。モモ」

「はいなのです♪」


 拓海の言葉にニッコリと笑い返しモモはトテトテと歩く

 拓海は外靴に履き替え昇降口を出る。校門を抜け自宅に向いながら歩く拓海だが右手にはモモ、左手には晴菜と相変わらず両手に華の状況だと言うのにそこのところを微塵も気にすることがない。

 すると、突然に晴菜が何かを思い出し口を開く


「あぁ、そうそう」

「ん?」


 拓海も晴菜の声に反応する

 晴菜は視線を拓海に向ける


「もう少しだったわよね?学際」

「学際?あぁ、そうだったか」

「そうだったかじゃないわよ。出し物とかどうすんのよ?」


 晴菜の問いに拓海は腕組みをして少し頭を悩ませる


「まぁ、あれだ」

「なにかあるの?」

「ここは無難にメイド喫茶とか」


 その言葉に晴菜は目を丸くさせながら拓海を見返し一つ溜息を吐く


「はぁ……何が無難なのかわからないけれど、マジで言ってるの?」

「俺はいつも真面目だが?」


 表情一つ変えず言い返す拓海に晴菜は呆れた声を漏らす


「それは真面目じゃなく単なるバカとしか言いようがないわよ」

「出し物はインパクトがあったほうが良いだろう?」


 晴菜は頭を抱え呆れ顔で言い返す


「言い分は何となくわかるけど……なんでそれを選んだの?むしろ、クラス内でメイド喫茶やったとしても男性陣は何すんのよ?」

「勿論、もてなされるに決まっているだろう」

「はぁ?じゃぁ、働くのは女性だけ?」

「当たり前だ。メイドとは本来そういうものだからな」


 拓海は誇らしげに胸を張り言い放つ


「学校行事まで自分の私欲に利用するとかって……」


 そこへ晴菜と拓海の会話にモモが割って入る


「楽しそうなのです♪やってみたいですの」

「そうだな、モモなら問題ない。むしろ、そのままで十分にいける」

「ほぇ?」


 何度も頷きながら言う拓海にモモは首を傾げ疑問の声を漏らす

 隣に居た晴菜は口を開く


「なにこれ?なんで出し物はメイド喫茶で決定みたいな流れになっているのよ」

「ん?違うのか?」

「違うわよ!というか、まだ仮定での話でしょ?話すらしていないのに」


 晴菜に激しく突っ込みを入れられ何故か拓海は残念そうに肩を落とす


「俺のクラスメイド計画が……」

「どんな計画よ」

「仕方ない、とりあえずは保留だな」

「あくまでも譲る気はない訳ね……」


 そんなどうしようもない会話をしている内に気付けば自宅近くまで来ていた。

 拓海は晴菜と別れると家へ足を運ぶ。


◇ ◇


 自宅に帰った拓海は階段を上り真っ直ぐ部屋に入ると軽く着替えを済ませベッドに腰を下ろす。顔を上げた拓海の視界に入ったのは暫く立ち上げていなかったパソコンの存在。拓海は突然に立ち上がるとパソコンが置いてあるデスクへ歩み寄り椅子に座る。このポジションに座るのも久し振りな気もするが拓海は再び眼前のパソコンと睨めっこしながら考える。



(実際、ゲーム自体のモモはどうなっているのだろうか?)



 この場に現われたモモという存在、だがゲーム世界における彼女の存在はどうなってしまっているのか?

 拓海はふと考えた。なんとなく気になりパソコンの電源を入れる。ディスプレイには見慣れた起動画面、立ち上がったところで手際よくマウスを操作して問題のゲームアイコンにカーソルを持って来る。しかし、拓海の手が操作するカーソルはアイコンをクリックした状態で止まっていた。何となく起動するのが怖くなってしまったのだ。

 起動したところで本当にモモの存在が居なかったらどうするのか?

 それとも、ゲームはゲームとしてそこにも存在するのか?

 マウスを握り悩む拓海の手は震えていた。そして、拓海はマウスをしっかり握り直すとアイコンをクリックしてゲームを起動させた。そこには何度も見てきたタイトル画面、懐かしい気分に浸りながら久し振りにゲームを開始しようとメニューを選ぶ拓海は目を丸くさせる。


「ん?」


 そこにはデータが消えたはずにも関わらずロードメニューがあった

 不思議に思った拓海は迷わずクリックする


「こ、これは……どういうことだ?」


 激しく疑問の声を漏らす拓海が見たのはロードデータの存在。

 しかも、そのデータは落雷があった日付、つまりモモが現われた時までのデータである。

 拓海はカーソルを動かしながら画面に向い呟く


「なぜだ!消えたんじゃなかったのか?」


 パソコン相手に突っ込む拓海であるが言ったところで返事など返って来るはずもない。

 ディスプレイに映し出される『ロードしますか?』の文字、拓海に問われるYESかNOの選択。

 クリックしたからと言って何が変るなどということは知るはずもない。

 しかし、拓海は何を思ったのか自分の中にも選択肢を発生させてしまう。



 1.『やっぱりロードしない』 

 2.『とりあえずロードする』

 3.『ゲームを終了させる』



 もはや選択肢を目の前にしてまで自分で新たな選択を作ってしまうとは、頭を余計に悩ませるとか自分で自分の首を絞めている様なものである。

 ゲームのロードをするかしないかを選ぶだけでここまで考えられるのは拓海くらいであろう。

 さて、ここで考えついた選択肢であるが2.『とりあえずロードする』を選ぶとしよう。事実、映し出されているデータはモモが現われる時までのものであり、それをロードしてしまえば現在のモモは消えてしまうのでないかと言う恐れがある為、拓海にしてみれば選ぶのを躊躇うだろう。では1.『やっぱりロードしない』を選んだとする。

 まぁ、現状で選ぶとしたらこれが一番無難なのだろうが、選んだところで何か変わるという保障はどこにもない。それは現実から目を背けたくないと言うことにもなる。ようはロードをしなければ今のままでいられるだろうというからである。

 最後に残ったのは3.『ゲームを終了させる』ある意味でこれは1と2の選択を一切無視した最終的手段である。

 本来、ロードをするかしないかで迷っているのならば手っ取り早く終了させてゲームを中断させてしまえばいいのだろう。だが、ここまでの拓海を見てみれば今度は『ゲームを終了させる、しない』で迷ってしまいそうな勢いであるが……流石にそこまではないだろう。

 そして、パソコンのディスプレイを前にマウスを握り締めながら拓海はカーソルを動かした。


「……よし」


 ゲームの選択一つにどれだけ時間を費やしているのだろうか

 拓海はようやく覚悟を決めた


「と、とりあえず……ロードしてみるか?」


 拓海の操作するカーソルはYESを選択していた


「待て!待つんだ俺!」


 YESの文字を選択したまま拓海はマウスから手を離し自問自答する


「選んでしまえば、後戻りは出来んぞ?いいのか?」


 拓海は答えの無い自問自答を何度も繰り返す

 そして、深呼吸をすると拓海は再びマウスを握る


「やっぱりここはロードしないほうがいいか?むしろ、ゲームするから悪いんだ!」


 何故か逆切れを起した上に『1』と『3』の選択肢を繋ぎ合わせていた

 宣言どおり拓海はゲームを終了させるが、またマウスを動かす


「なら、違うゲームをするまでだ」


 止めたと思ったら拓海は違う美少女ゲームを起動させる。結局はゲームを止めることがないらしい。

 暫くしてモモから御飯の御呼びがかかるが、拓海は夕飯も食べずに夜中までギャルゲーに入り浸っていた。



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