25話 恐れていた事態
新章開始
※不定期更新になりますが、あしからず
翌朝、拓海はベッドに深く腰を下ろしながら悩んでいた。
それはもう、とてつもなく悩んでいた。理由は言うまでも無い。昨晩の出来事である。
頭を抱えながら拓海は溜息混じりに呟いていた
「くそっ……なぜこうなった」
悩んだところで答えなど出るはずもない
「どうしたものか……」
拓海が頭を悩ませていると部屋の戸がノックされ扉越しに声が聞こえる
「拓海様?」
声の主はモモである
拓海はモモの呼び掛けに反応すると言葉を返す
「ん?なんだ」
「遅刻しますですよ?」
問いかけながらモモは扉をゆっくりと開く
「わかった、いま準備を――」
部屋に入ろうとするモモの姿を見た拓海は唖然とし言葉が浮かんでこなかった。
そんな拓海を不思議そうに見つめながらモモは声をかけると
「どうしたのです?」
モモの呼び掛けで我に返った拓海は声を震わせながら
「も、モモ……なんだ、その格好は?」
「ふぇ?」
拓海の視線の先には何故か制服姿のモモが居た
(こ、これはどういうことだ?)
すると、拓海の視線に気付いたモモは何故か自分の格好を不思議そうに見ながら呟く
「ほぇ?どうしてこんな服を着ているんでしょうか?」
「俺が聞きてぇよ!」
モモ自身も状況把握出来ていないらしい
「また嫌な予感が……」
恐らくは変なフラグが発生してしまったのだろう。よくよく考えてみればモモは一応、二次元キャラクターである。よって、設定が変わることも珍しくないかもしれないのだ。
つまり、昨晩の晴菜と交わした話の流れで『学校に行ってみない?』といった何気ない話が原因と言えよう。
しかしながら、本当に設定が変わっての事なのか、自分の意志でやっている事なのか定かではない。そんな事を考えたところで目の前の現実が変わる訳もなく拓海は更に追い討ちをかけられる
モモは自分の状況をようやく把握したかと思えば突然に表情を明るくさせ拓海に言う
「わぁ、晴菜さんと一緒なのです♪」
「……」
もはや今の拓海は返答一つ浮かんでこなかった
選択肢すらも出て来ないほど窮地に立たされた拓海に更なる追い討ちが
突如鳴り響く呼び鈴、どうやら朝のお迎えが来たらしい
「おーい、起きてるの?」
下の階からは晴菜の声が聞こえる
そして、相変わらず晴菜は何のお構いも無しに家へ上がり込むと拓海を呼びながら階段を上りだす。
一方の拓海は新鮮な制服姿のモモとご対面中である。
「まったく、いい加減にしなさいよ!」
怒鳴り散らしながら勢い良く晴菜は部屋の扉を開ける
「ついに来たか……」
晴菜と目が合った拓海は少し肩を落としながら呟いていた
「異星人が襲来してきたみたいに言うんじゃないわよ」
「そこまでは言っていないが……まぁ、似た様なものだ」
拓海が思う異星人襲来とは起きたらメイドロボットが女子学生に変わっていましたということであろう。
そして、肝心のモモは晴菜に気付くと
「あっ、晴菜さん。おはようございますです」
「モモちゃん、おはよう。あれ?どうしたの、その制服」
やはり晴菜も疑問に感じたらしい
そして、その疑問は拓海に向けられ
「拓、これはどう言うこと?」
「いゃ……起きたらこうなってだな――」
「はぁ?」
拓海は率直な言葉を言っているのだが、晴菜にしてみれば意味不明でしかない。
呆れた表情で晴菜は再び聞きなおす
「そう言うことじゃなくて、どうしてモモちゃんは同じ学校の制服を着ているの?それ以前に昨日、聞いたわよね?」
「ま、まぁ」
「そしたら、メイド服しかないとか言っていなかった?」
的確なコメントに拓海は返す言葉が出てこない
「しかも昨日の今日で?一体、今度は何をやらかしたわけ?」
疑惑の眼差しを向け拓海に言う
「今度とは何だ、今度とは」
「そう思われたくなければ日頃の行いを見直すことね」
すると、モモが会話に割って入り
「拓海様、早くしないと遅刻なのです」
その言葉に拓海はベッドに置いてある目覚まし時計に視線をやると、モモの言う通り時間的にギリギリだった
「そうだな、行くか」
「はい」
笑顔で返事をするモモに拓海は視線を送るように振り返ると
「ん?はい?」
「モモちゃんも行くのね?」
何故か晴菜は、すんなりと納得していた
「じゃぁ、行こっか?」
「はいなのです」
不安な表情を浮かべる拓海をよそに晴菜とモモは楽しそうに部屋を出て行った。
◇ ◇
学校へ行く為に家を出てきた拓海だが、どうしてなのかモモまで付いて来ることになってしまった。
まさか冗談で言ったと思っていたことが、こうも簡単に現実化してしまうとは思ってもいない。しかし、そもそも元からを考えてみればモモがここに居るのは拓海が『メイドロボットとか居たらいいのになぁ』等という幼稚でダメな思考が生んだ結果なのだ。
ならば、今回のケースも似たようなものなのだろう。
『モモが学校へ行く』等といった考えは晴菜に問われるまでは思いもしなかった訳で、そういったケースを考えてしまった挙句にこういった結果を生んでしまった訳である。
ここまで来ると拓海は色んな意味で『神』なのかもしれない。
そして何とも無駄なことしかしない神である。
登校途中、晴菜とモモは楽しそうに喋っているが拓海はそれどころでなかった。
むしろ、何かと不安で仕方が無い。
覇気の無い拓海に気付いたモモは心配そうに声をかける
「拓海様、どうしたのです?」
「いゃ……どうしたと言われても」
流石の拓海も今回ばかりはお手上げのようだ
そんな拓海に晴菜も一言
「いつまでも、だらけてるんじゃないわよ」
すると拓海は何を思ったのか
「晴菜がモモに余計な事を吹き込むからいかんのだ!」
急に逆切れを起した
「はぁ?」
「だから、晴菜がモモに学校へ行かないか?などと誘いをかけるからこうなってしまったのではないか!」
突然に言われた晴菜は拓海の言葉の意味が理解出来ず首を傾げていた
そんなこともお構い無しに拓海は更に言う
「くそっ、俺のメイドを返しやがれ」
「……あんたの悩みは、そこなの?」
一人悔しがる拓海を晴菜は呆れる様に見つめていた
隣に居たモモは笑顔で拓海に言う
「晴菜さんと同じ制服が着れて、拓海様と同じ学校へ行けてモモは嬉しいですの♪」
そんなモモの無邪気な笑顔を見た拓海には複雑な思いしか湧かなかった
だが、ここでどう足掻いたところで状況が変わることは無い。
こうなってしまったからには仕方の無いことなのだ。
もしかしたら遅かれ早かれ、こうなっていたのかもしれない。
拓海は複雑な悩みを抱えたまま当等、学校へ着いていた。
校門を前に拓海の脳内には嫌な予感しか思い浮かばなかった。
呆然と立ち竦む拓海に声がかかる
「遅刻するから、先に行くわよ」
そう言って晴菜は校舎の中へと姿を消した
残された拓海とモモ
「はわわっ、拓海様も早くしないと遅刻なのです」
去って行く晴菜を見送ったモモは、あたふたとしながら拓海に言うが当の本人は心此処に在らずといった状態で、この先起こるであろう事柄を想像しながらゆっくりと校舎に足へを進めていた
そして、モモもトテトテと拓海の後を着いていく
まさかゲームから飛び出してきた美少女が家に居座るだけでなく、同じ学校にまで登校してしまうとは思ってもいなかった拓海である。