23話 買い物
歩きながら拓海はモモに視線を向け問う
「ところで、買い物とは何だ?」
「晩御飯の買い物なのです」
「晩飯だと……」
「はいなのです」
「薄々そんなことだろうとは思っていたが……」
そう言いながら拓海は肩を落とし呟く
顔を上げると拓海は晴菜に視線を向け
「晴菜、頼みがある」
「なによ?突然」
「晩飯を作って欲しい」
拓海の急な言葉に晴菜は目を丸くさせキョトンとしていた
「えっ?でも、モモちゃんが作るんじゃないの?」
「いや、俺は晴菜に頼んでいるのだ!むしろ、お願いする!」
「……拓海がそこまで言うなら」
晴菜は顔を紅くさせながら小さく呟き返す
そんな二人を見ていたのか、翔太が会話に割り込んでくる
「なんだ?晴菜ちゃんに晩飯作ってもらうのか?」
「あぁ、そうだが」
「拓海は、いいよなぁ……晴菜ちゃんみたいな可愛い幼馴染みが居てさ」
翔太は拓海達を見ながら悔しそうに言う
「ん?翔太だって、姉が居ただろう?」
「あぁ……姉貴は論外だよ。姉貴が料理しているところ自体見たこともないし、逆らったらどうなるかわかったもんじゃない……」
翔太の言葉に拓海は不思議そうな面持ちをしながら言う
「そうだったか?まぁ、どうでもいいが」
「軽く話を切ったな」
隣に居た晴菜が会話に混ざってくると話を戻す
「それで?今日、作りに行けばいいの?」
「うむ。出来れば毎日でも構わん」
「……はぁ?」
何故か偉そうに言い放つ拓海に晴菜も呆れの声を漏らす
「毎日って、モモちゃんは?」
「まぁ、四六時中作ってもらっているのは何かと大変かと思ってだな」
「言い分は何となくわかるけれど、それじゃぁ私は代役?」
晴菜は腑に落ちない様子で拓海に言い返す
「代役なのかと聞かれるとそうとも言えないが、代役という訳ではない」
「どっちよ……」
「マジで今回ばかりは頼む」
拓海の考えからしてみれば、モモの料理を回避するには晴菜の料理に頼る他に道が無いと思ったのだろう。
しかし、晴菜も拓海に本気で頼まれたことがまんざらでもない様であった。
晴菜は何かを思い立ったように言う
「あっ、せっかく買い物に来たんだしモモちゃんの服でも買いましょ」
「服?」
「そうよ、だってメイド服しか無いんでしょ?」
「ま、まぁ……そうだが」
「一着くらいね」
「俺としてはメイド萌えなのだが……」
晴菜に聴こえないように呟く拓海だが
「ん?なんか言った?」
「ぃゃ……なにも」
(地獄耳かよ……)
結局、服を買うという方向で話が纏まったところで、モモを含めた五人はウィンドウショッピングをしていた。気になる店に入ると『あっ、これなんかイイね♪』とか『こういうのは、どうかな?』とか殆んど女性人だけで盛り上がり男性人の拓海と翔太は、置いてきぼり状態となっていた。
店内を見渡せば何となくレディース物が多い。場違いとまでは行かないがこんなところで何をすればいいのか拓海もわからなくなっていた。
すると、拓海は店内を見渡しながら
「なぁ、翔太」
「ん?なんだ?」
「他の連中は居なくなってしまった訳だが……俺はどうすればいい?」
もはや、拓海は自分の行動理由すら失ってしまっているようである
「どうすればって言われても……」
「よし、もう帰っていいか?」
「何をもってよしと言っているのかわからんが、ダメだろ?」
「くそっ!なんてことだ……」
別にこれと言った事はしていないのだが何故にそこまで悔しがるのかが疑問になってしまう。
そんな拓海を呆れる様に見ていた翔太は
「お前が、こういうのに興味ないことくらい知ってはいるが……何だか表現方法がおかしくないか?」
「細かい事は気にするな」
などと言い合いをしていると、ようやく買い物を終えた女性人達が拓海達の下へ笑顔でやって来た
最初に口を開いたのは友里香だった
「おまたせ~♪」
友里香は嬉しそうに両手いっぱい買い物袋をぶら下げ立っていた
それを見た翔太は呆れた声で
「なんで委員長が買っているの?しかも買いすぎ!」
「なによぉ~ 欲しいものがあったから買っただけじゃない?安かったから、ついね♪」
友里香は嬉しそうに笑顔で言う
拓海は友里香の隣に居た晴菜に視線をやると
「ん?晴菜は買わなかったのか?」
「私はさっきの買い物で使っちゃったから」
「ふむ、無駄遣いはよくないな」
「随分と偉そうに言っているけれど、説得力に欠けるわね」
拓海の台詞に晴菜は溜息を吐きながら呟き返す
「モモちゃんの分も買おうと思ったけれど、服を買うくらいのお金が余ってなかったみたいだったわ」
「じゃぁ、何をしに来たんだよ……」
翔太は浮かれ気分の友里香に目線を送ると
「まぁ、はしゃいでいるのは委員長だけだがな」
「よし、用が済んだのなら帰るぞ」
「ちょっ!拓海、待てよ」
店を出ようとする拓海の背中に翔太は声をかけるが
「待たん!」
「はぁ?」
拓海は振り返り翔太と向かい合うと、一つ間を置き
「俺は早く帰ってTVを見なければならんのだ!不覚にもHDD録画を忘れてしまっていてな」
「知るかよ!」
「故に帰らなければならない」
そう言い残すと拓海は一人店を出て行き帰って行き、晴菜達が拓海が居なくなった事に気付いたのは店を出てからの事だった。