22話 鉢合わせ
ゲームセンターの前まで来ると翔太は首を傾げながら言う
「あれ?」
首を傾げる翔太を友里香は不思議そうに見つめ
「どうしたの?」
「居ない。さっきまで、そこのクレーンゲームをしていたのだが」
「またいつものパターンだろ?」
そんな翔太の言葉に拓海は当然の様な反応で言う
「勝手にパターン化させるな……」
「もしかして、帰ったんじゃない?」
「晴菜ちゃんまで……」
やっぱりね、といった表情で友里香は一つ息を吐き
「まっ、当然よね」
「なんだよ、今回は相性が悪かっただけだ」
「はいはい、その台詞は聞き飽きたわよ」
翔太の言い訳は拓海達にとってみれば、お約束としか言いようがない
お決まりの言い訳を口にする翔太は、ふて腐れながら拓海達に背を向けるが視線の先に居た人物を見て目を丸くさせてしまう。
翔太の視界に飛び込んできたのは、どこかで見覚えのあるメイド服で身を包んだ少女の姿であった。
「あれ?もしかして……あの時の?」
少女の正体はモモであった
そして、声に反応した拓海も振り向き翔太の視線を辿るが
「……ん?」
モモを視界に捉えた拓海であるが、どうしてここにモモが居るのか把握出来るはずも分かるはずもなく沈黙してしまう。必死に状況を整理しようと脳内を働かせるのだが、どこをどう考えても答えが浮かばない。
悩む拓海だが、翔太がモモを見つけたという訳であるのだから他の方々が気付かない訳がない。
「あれ?モモちゃんじゃない?」
拓海の隣に居た晴菜も気付き声を上げる
拓海達の反応を見た友里香は不思議そうな面持ちでモモを見つめ
「なにあれ?コスプレ?」
当然の反応なのだろう
一方の拓海は、ようやく現状を把握したのか顔を青くさせ額には汗からは滲んでいた。何も知らない翔太は、先程までの暗い顔はどこにいったのかと言わんばかりに明るい表情を作ると嬉しそうに甲高い声を上げ、モモを力強く指差すと
「おい!拓海!あの子だよ!」
そう言いながら拓海の肩を揺さぶり歓喜する翔太
「ぁ、あの子か……そ、そっか……」
喜ぶ翔太を前に拓海の顔は見る見る青ざめるばかりであった
ついに拓海は頭を抱え込んでしまう
そんな拓海の姿を不思議に思った翔太は落ち着きを取り戻すと
「ん?拓海、どうした?」
「えぇい!何故に見つけた!むしろ忘れろ!」
「はぁ?なに言ってるんだ?」
抱えていた腕を振りほどき何故か翔太へ逆ギレを起す拓海。
拓海の行動に翔太も何かを感じ取ったのか
「この間と言い、今と言い、なんでそこまで言う?あの子を知っているのか?」
翔太に問い詰められていると、偶然にも拓海達に気付いたモモがトテトテと歩み寄ってくる。
そして、拓海の前に立つと可愛らしい笑顔を作り
「拓海様、どうしてここに居るのですか?」
「それはこっちの台詞だよ!」
モモの問いに拓海も思わず突っ込みを入れてしまう
そして、晴菜も不思議そうな面持ちで
「モモちゃんこそ、どうしたの?独り?」
「はい、買い物に来ていたのです♪」
笑顔で言い返すモモであるが、拓海は疑問の声を上げ
「ちょっと待て……買い物と言うが金は?」
「お金ですか?なんだかカメラを持った方々から頂きましたですの」
「あぁ……なるほど」
(ようするにアレか?レイヤーと間違われたのか?)
モモは二次元である前に美少女である。故に二次キャラでなかろうが、美少女であることに変わりはないのだ。
加えてメイド服装備、世間から目をつけられないはずもない。恐らく、モモの言うカメラを持った方々と言うのは一般的に言う『カメラ小僧』通称カメ子という輩であろう。
そして、モモが手にしている金は撮影料金と言ったところであるが、その金額も半端なかった。
しかし、問題はそこではなくモモがどうして出掛けて来ているのかと言うことである。
そんな拓海の会話を聞いていた翔太は頭の上に『?』マークを浮かべ
「……拓海様?はぁ?どんな関係だ、いったい」
「えっ?ま、まぁ……アレだ。知り合いだ」
「随分と国境を越えた知り合いだな」
「親の親戚らしくてな……」
結構前にも聞いた事がある言い訳であるが、どうやら拓海はこの設定で突き通すつもりらしい
これに反応したのは翔太だけではなく勿論、友里香も同じく
「なに?知り合いと言うだけで拓海様だなんて……しかも、メイド?拓海君はこういうのが好きなの?これで喜ぶなら私でも着るわよ」
「友里香先輩のメイド服かぁ……結構、見てみたいかも」
翔太は友里香のことを見ながらメイド姿を想像しニヤけていた
「翔太に見せるわけないでしょうが!」
「ぐがぁっ!」
ニヤけ面の翔太へ綺麗な顔面アッパーが炸裂し殴り飛ばされてしまう。
飛ばされる翔太を心配そうに見つめるモモだが、もっと心配なのは拓海の方である。
この状況下をどう対処していいのかわからず沈黙したまま
「だったら、私達も買い物していたところだしモモちゃんも一緒に来る?」
思わぬところで晴菜はモモに誘いをかける
「いいのですか?」
「大丈夫よ。ほら、拓だって居るんだから」
そう言って晴菜は拓海に視線を向けるが肝心の拓海は凍りついたまま
「……拓?おーい?」
「はっ!」
「きゃっ!」
急に目覚める拓海に驚く晴菜
「……マジか?」
「なんだか知らんが、そう言うことなら俺は大賛成だ」
「翔太、鼻の下が伸びているわよ?また変なこと考えているんでしょ?」
「そ、そんな訳あるかよ!」
友里香の指摘に焦りを見せる翔太。
結局、モモも同行するという事となり四人は再び商店街を歩きだす。