20話 罰
「ここは?」
「そんなもの見ればわかるでしょ?クレープ屋よ」
クレープ屋を前に拓海は
「で?」
「なにが?」
「どうしろと?」
拓海は疑問の声を晴菜に投げると
「食べるに決まってるじゃない」
「いま?」
「最近、建ったばかりなんだけれど学校内でも美味しいって評判の店なのよ。でも、部活とかあったから行ける機会があまりなくて」
そんな晴菜の説明を拓海は受け流すように聞いていた
「ほぉ」
「だから、来てみたかったのよ」
「ん?待て……俺はクレープに使う金などないぞ」
こういう時だけは頭の回転が速いらしい。
何かを察したのか、まだ晴菜は何も聞いていないというのに、どれだけ金に執着するのか知らないがクレープ一つにかかる金額など数百円程度。それすらも、払えないとは
だが、そんな拓海の反応など晴菜にしてみればお見通しだったらしい
「そう言うとは思っていたけれど……」
「そうか、期待を裏切らずにすんだか」
「そんな期待はいらないわよ……」
拓海の言葉に晴菜は深く溜息を吐き呆れ返っていた
「それで?」
「とりあえず、せっかく来たんだから」
「食うのか?」
「当たり前でしょ!」
拓海のボケに晴菜も突っ込んでしまう。
まぁ、拓海自信はわざとボケている訳ではなく真面目に言っているのだから余計にたちが悪いのだ
「よし、ならば食うがいいさ」
「随分と偉そうに言うわね……」
「気にするな。食べたかったんだろ?」
「そりゃぁ、そうだけど……拓も一緒に食べない?」
拓海に視線を送ると晴菜は少し恥かしそうに呟き返す
「俺は払えんと言っただろう。ん?晴菜が出してくれるのか?」
「はぁ……いいわよ、クレープ代くらい」
結局はこうなるだろうと予測していただけに、晴菜はおもわず溜息漏れてしまう
「マジか!」
「こんなことで、そこまで喜ばれても何か悲しくなってくるわ」
「やっと食い物にありつけるぜ」
「……」
拓海が口にする本日最初の食べ物がクレープとは、もはや食事にすらなっていないと思うのだが……
「マジでどんな食生活をしているのよ」
晴菜がそんなことをぼやいていると、拓海はメニュー表を見ながら
「ところで、晴菜は何を食うんだ?」
「う~ん、これかな」
メニュー表を見て晴菜が指差したのは『ストロベリーバナナチップクリーム』という商品だった。
どうやら、一番人気のクレープらしい
「ふむ、どの辺りがおすすめだ?」
こういった物をあまり食べることがない拓海は何を食べればいいか選別に迷っていた。
「そうね、これなんてどう?」
「どれだ?」
晴菜が指した先を辿ると、そこには『たっぷりチョコバナナとネバネバ納豆クレープ』という商品名が書いてあった。新発売とされているが、何だか味の想像がまったくつかない。
それを見た拓海は晴菜に視線を向けると疑惑の声で言うと
「これは……食えるのか?」
「まぁ新商品らしいわね」
晴菜は当然の様な受け答えをする
「それは見ればわかるが……これは、クレープとして成り立っているのか?」
「成り立っているから商品になっているんじゃない?あっ、こっちも新商品みたいね」
「……ドリアン?それはアレか?果物のキングにしてキングに相応しい程の異臭を放つ代物のやつか?しかも、これは……」
拓海の視界に入ったそれは『アンチョビドリアンと濃厚クリームのコラボレーション・パクチー添えクレープ』という、何だかフレンチ料理に出て来そうな名前の理解不能な商品。
もはや、新商品と言うよりは、試験商品のように思えてくる
「……何で臭うやつばかり入っているんだ?その前に食う人居るのか?」
「誰かしら居るんじゃない?」
「居たとしたら、俺はそいつに敬意を示そう」
流石の拓海でも食べれそうな物と食べれそうにない物の区別はつくらしい。
「まぁ、バリエーションに飛んでいるのは確かね」
「これらを俺に薦めてきた晴菜に少し悪意を感じてしまうのだが……」
「ん?なに?」
「いゃ……組み合わせ多様なのはわかるが、とりあえず何でも詰めればクレープになるとかそういうものでもないと思うのだが……」
拓海にしては的確かつ、まともな意見である
そんな拓海の言葉に晴菜は一つ息を吐き
「はぁ、まったく冗談よ。同じものでいいわよね?」
「冗談にしては刺激が強すぎるが……この商品自体は冗談じゃなく正真正銘の新商品なのか?」
どうやら、晴菜は遊び冗談で薦めたらしいがメニュー表に書いてある商品は実際に存在するらしい
「……みたいね」
「本当にこの店は有名なのか?」
「まぁ、そういう話なんだれど……」
色々と疑問に残るところはあるが、拓海は晴菜と同じ商品を頼み本日、最初の食べ物を口にする。
これを一食目と言うには無理があるが、拓海にしてみればやっとまともな食べ物にありつけた訳であるが、あの時に出た意味不明の新商品が冗談でなく本気で薦められていたらどうしたのだろう。