18話 決断
結局、飯にありつけず自宅へとんぼ返りする事になった。
未だにどうして自分が晴菜に殴られたのか理解していない拓海は、腑に落ちない様子で玄関に上がり込む
「まったく、どうしたんだ?晴菜のやつ」
家に上がるなり拓海は軽く愚痴を言い漏らしていた
「買い物に付き合えば食い物にもありつけるかと思ったのだが」
どうやら、買い物に付き合うことを口実に何とか食にありつきたかったらしい。
どこをどうやったらそんな考えが思い浮かぶのか、いつもながら拓海の思考パターンはどうしようもない。
すると、肩を落とす拓海に声がかかる
「あの、拓海様?」
「ん?モモか」
声の主はモモであった
心配そうな面持ちで拓海に言い寄ってくると
「具合が悪いのですか?」
「いゃ……腹が減って」
「ふぇ?外で食べて来たんじゃ?」
モモは不思議そうに首を傾げ拓海を見つめる
「……しまった!」
「はぃ?」
少しは自分の言った台詞くらい覚えておけと言いたくなる。
数分前の出来事ならば犬でも忘れないと思うのだが
「ま、まぁ……金が無くてな」
「そうなのですか」
「うむ」
「でわ、準備を」
「待て待て!もういらん!」
拓海は場を離れようとするモモを必死に引き止める
「何となくこんな展開になりそうな予感はしていたが……」
「いらないですか?モモ、いらないですの?」
モモは何かを訴えるように潤んだ瞳で拓海に言う
「あっ……いゃ、そういうわけではなくだな」
一方の拓海も返答に困った挙句、やはり選択肢を発生させてしまう
1.『朝食は食べない主義なのだ』
2.『本当は外で食べてきたのだ』
3.『今は食事をする気分で無いのだ』
一体、拓海の脳内はどのような構造になっているのか不思議になってしまうが困り果てると瞬時に浮かぶ三択コマンド。まるで脳内でギャンブルを行っているかの様である。しかしながら、いつもいつもどうでもいいような事で悩む拓海だが、朝飯を食べるか食べないで迷ってしまうとは……
ここで真っ先に選ぶとしたら3.『今は食事をする気分で無いなのだ』であろう。
拓海の気持ち的には何としても、あの殺人料理だけは回避したいと思っているからだ。
しかし、モモがどう捕らえるか分からない為に言うのも怖い。
ならば2.『本当は外で食べてきたのだ』を選んだとしよう。
だが、このコマンドには説得力が無い。何故なら、つい数分前に外では食べてこなかったとカミングアウトしている訳で流石のモモでもそれくらいの理解はある。
そこまで分かっていて突き通すとしたら、よほどのバカである。
最後に残ったコマンドだが、この1.『朝食は食べない主義なのだ』と言う意味が理解出来ない。
大体、事の発端はモモの作る殺人的料理の朝食から逃げ出したところから始まった訳であるが、これでは朝食にありつけないと悟った拓海は最終手段として晴菜家に食事をたかりに行った訳である。
そして、見事なまでに撃沈し最後の砦を失った拓海は今に至ると言うことなのだが、ようするに朝食にありつけず今の今まで悩んでいる訳であるので『朝食は食べない主義なのだ』と言うコマンドは死亡フラグに近い。
そして、悩んだ挙句に拓海が出した答えは
「いいか、モモ。よく聞け」
「?」
目を合わせる拓海はモモに言い聞かせる
「俺は、朝食を食べない主義なのだ」
何を血迷ったのか1.『朝食は食べない主義なのだ』を選んだらしい
この回答に対してモモは当然の反応で首を傾げながら
「……?」
フリーズ状態に陥っていた
よもや二次元のメイドロボットまで黙らせてしまうとは、色んな意味で凄い才能である。
拓海の呆れるような行為は次元すらも超越してしまうらしい。
これなら、二次元キャラとの生活に順応出来てしまうのも納得が行く。
ようやく、口を開いたモモは
「あの……拓海様」
「ん?どうした?」
「言葉の意味が理解出来ないのです」
当然の答えである。
恐らく、モモに限らず誰が聞いても理解不能であろう
「でも、朝食は昨日食べたですの」
モモの質問に拓海は否定することなく
「あぁ、確かに食ったな」
「どうしてですの?御飯は食べないとダメなのです」
「いや、飯なら食うよ」
心配そうに言うモモに毅然とした態度で拓海は言い返す
「ふぇ?」
「だが、毎朝食べている訳ではないだろ?」
「どういうことなのです?」
「ようするに、言い換えれば朝食はあまり食べない主義と言うことで昼食は食う。付け加えればまともな飯を……」
拓海の言うまともな飯とはモモが作る殺人料理以外の飯と言う事であろう。
すると、何故かモモの表情が明るくなり
「なるほどなのです!」
「ふぅ……わかってくれたか」
「でわ、昼食の献立を――」
「って、待て待てぇぃ!」
モモの呟きに拓海は素早い突っ込みを入れる
「はぃ?」
「まだ昼食は早い!準備もいらん!」
「ふみゅ~」
「すまん、モモ。俺はまだ死にたくはないのだ……」
しょんぼりと肩を落とすモモに拓海は呟いていた
死にたくないといった思考が出てくるという殺人料理の恐ろしさは、一体どれ程のものなのか想像も出来ない。