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16話 放課後にて

 昼休みの一件からろくに授業も頭に入らずに、気付けば放課後となっていた。

 そして、帰り支度をしている拓海の下へ晴菜が近づいてきては


「帰るの?」

 席に座る拓海を見下ろしながら言う

「そうだ、見てわからないか?」

「それは、わかるけど……」

「どうした?晴菜は部活があるんだろ?」

「今日は部活休みなのよ。だから、私もこれから帰るところ」

「そうか」


 支度を終え席から立とうとする拓海だが、晴菜がここまで意思表示をしていると言うのに全く気付かないというのは鈍感以前の問題ではないだろうか?大体、女の子に帰るのかと聞かれ『私も今から帰るところなんだけれど』などと言うテンプレート的な返答が来ている時点で一緒に帰りましょうと誘っているようなものなのであるが、どうやら自分基準な拓海には通用しないらしい。


「さてと、帰るか」

 鞄を持ち席から離れようとする拓海に晴菜が声をかけ

「ちょ!何を勝手に帰ろうとしてんのよ」

「どうしてだ?」

「私も帰るから少し待って……」

 少し恥らいながら晴菜は言うが

「なんだよ、そんなことなら早く言えよ」

 拓海は晴菜の言動に何も気にしていない様であった

「というか、最初に言ったわよ」

「そうだったのか」

「はぁ、聞いていなかったのね……」

 晴菜は呆れながら溜息を吐いていた

 

 支度を済ませ学校を出ると拓海は晴菜と帰路に着いていた。

 拓海は歩きながら晴菜に視線を向けると何かを思い出したかのように


「ところで」

「なに?」

「本当に来るつもりなのか?」

「ダメなの?」

「いゃ、まぁ……ダメではないが」

 気になっていたのは、朝の一件についてであった

 煮え切らない様子の拓海に晴菜は

「朝からハッキリしないわね。何かあったの?」

「あったと言えば、あったのだが……」

「モモちゃんと喧嘩でもしたの?」

「まぁ、そういう事で収まるのなら可愛いほうだが」

 思わず本音が出てしまう拓海

「余計、気になるわね」

「なら、気にするな」

「会話になってないわよ……」

「だから気にするな」

「はぁ……」


 毅然とした態度で言う拓海に晴菜は溜息しか出なかった

 気付けば拓海の足は家の近くまで着ていた。そして、玄関の扉を開けて家に入ると帰りを待っていたのかモモの姿があった。


「拓海様、お帰りなさいなのです」

「おう、ただいま」


 これが日常の様に当然な受け答えをする拓海だが、二次元相手にここまで順応するとは違う意味の凄さを感じてしまうところである。

 拓海はそのままリビングへ向いソファーに腰を下ろすと、今日も一日やりきった感を漂わせる様に溜息を吐いていた。まぁ、特にやりきったと言える程の様な事は全くしていないのだが。

 そんな事を感じつつ寛いでいると家の呼び鈴が鳴る。外は暮れかかっているが、こんな時間に拓海の家を訪れる人物等は一人しか該当しない。


「こんな時間に何だよ……ん?まさか」

 と、言いつつ拓海は玄関先に足を運ぶと視線の先に居たのは

「来たわよ」

「あっ……やっぱり晴菜か」

 何となく予想していた拓海は落胆とした声を漏らす

「何が、やっぱりよ?まるで来て欲しくなかったみたいな言い方ね」

「いやまぁ……なんと言うかだな」

「まぁいいわ、上がるわよ」

 拓海の話などは構わずに堂々と上がり込む晴菜

 そんな行動を制する様に上がり込む晴菜に

「ちょっ!待て!」

「なによ?」

「お見舞いとやらは十分だ。もう良くなっているのでな」

「良くなったんだったら会っても平気なんでしょ?何でダメなの?」

 晴菜の的確な返答に拓海は返す言葉が出てこない

「うっ……それはだな……」

 等と拓海が悩んでいると二人の会話に気付いたのか奥からモモが現われ

「どうしたのです?」

 と、二人の下へ言い寄ってきた

 晴菜はモモに気付くと

「あっ、モモちゃん。大丈夫なの?」

「?」

 予想通りの反応で晴菜の言葉にモモは不思議そうに首を傾げていた

「モモちゃん?」

 すると、モモは拓海に視線を向け

「拓海様、この方は?」

 と当然の様に聞く

 勿論、そんなモモの反応に晴菜は

「……えっ?誰って?」

 困惑していた

「あの、どちら様なのですの?」

「どちら様って……なに?え?拓、これはどうゆうこと?」

「あぁ~、えぇ~っとだな…………まぁ、つまりあれだ」

「なに?」

「俗に言う、記憶喪失というものらしい」

 拓海の言葉に晴菜は沈黙すると

「…………」

「まぁ、そういうことだから後悔すると言ったのだ」

 ようやく、晴菜は口を開き

「それで?なんでこうなったの?」

「さぁ……モモが目を覚ましたらこうなっていた」

「なに?あの高熱が完治したら記憶喪失になってましたと言うわけ?」

「おおまかに言えば」

「熱を出して記憶が飛ぶって聞いた事ないわよ」

「現にこうなっているのだ」

 すると、お互いに目を合わせながら答えを探る様に言い合う二人へモモが心配そうな顔で声をかけてくる

「あの、拓海様?」

「ん?あぁ、悪い」

 二人の会話に晴菜は反応すると

「拓海様?なんか、呼び方が変わってない?」

「き、気のせいだろ」

「あんた……記憶喪失になったのを逆手に取って変なこと考えてないでしょうね?」

 拓海に疑いの眼差しを向けながら晴菜は言う

「な、何を言っているのだ。俺がそんなことをする人間に見えるか?」

「見える」

「即答かよ……」

「むしろ、普段の行いを知っている人なら絶対にそう言うわね」

 二人の会話を興味深く見ていたモモは再び拓海に問いかけると

「拓海様、この方は?」

「えぇ~とだな……」

「なんでそこで悩むのよ!」

「逆に知らないほうが良いのかと思ってだな……」

「余計なところに気を使うわね」

 若干、呆れ気味の晴菜に拓海は

「じゃぁ、どうしろと?」

「どうしろって、普通に言えばいいじゃない」

 拓海はモモと向き合うと

「まぁ、こいつはお節介な幼馴染みの榎本晴菜という奴なんだが、覚えているか?」

「お節介は余計よ!」

「ぐはぁっ!」

 見事なまでの突っ込みで拓海は頭を思いっきり叩かれてしまう

「いてぇ……」

「自業自得よ」

「これだけ言えば印象付くと思ったのだが……」

「変に誤解されるだけじゃない」

 頭を押さえ痛がる拓海にモモは心配そうな面持ちで

「拓海様、大丈夫なのですか?」

「あぁ、これくらい大丈夫だ。慣れているからな」

「慣れられても困るわね……」

 呆れる様に溜息を吐く晴菜に拓海は改まったように声をかけると

「それでどうするのだ?」

「なにが?」

「俺は後悔すると言ったぞ?結果としてこういう事になっているわけなのだからな」

 すると、拓海の台詞に晴菜は何かを思いついたかのように

「でも、これが高熱からきていたとするならば拓に原因があるわよね?」

「なぜそうなる……」

「大体ね、あんたが病院恐怖症だなんて訳のわからないことを口走った上に何もしないまま『しばらくすれば治る』とか適当なことを言いながら、家に帰ってきたのが悪いんじゃないの?」

 晴菜は拓海の行いを長々と指摘する

「うっ……しかしだな……」

「なにかあるの?」

 言われた拓海も何とか言い返す言葉を必死に考えていた

 何を思ったのか拓海は突然ここで選択肢が発生させてしまう。



 1.『病院に行っても同じだった』

 2.『家に居ても同じだった』

 3.『どちらにしても同じだった』



 またしても導き出したどうでもいい三パターンの選択肢であるが、ここで思いついた考えはこんなところで恐らく拓海が言いたいのは結果論についてであろう。ならば何を選ぶのが最善なのか?

 仮に1.『病院に行っても同じだった』と選んだとしよう。拓海の考えからするならば迷う事なくこれを選択していたはずであろうが、これは晴菜と逆の考えとなってしまう。病院に行ったとしても二次元少女をどう治療しろというのか?確かに拓海以外には普通の女子にしか見えていない。

 だが、元がメイドロボットである彼女に処方箋など効くはずもない。

 では2.『家に居ても同じだった』を選ぶべきか。実際問題、何もせずとも完治していたわけで家に居たままでも十分に良かったのではないだろうか?晴菜の意見を聞かずに家でモモの看病をしていれば結果も変わっていたのかもしれない。しかし、何も病院に行く事を選んでいたとしてもモモを構っていなかった拓海に問題があるのかもしれないが……

 ならば3.『どちらにしても同じだった』を選べかいいのだろうか。

 確かに、病院に行こうが家に残ろうが同じだったのかもしれない。少なくとも言える事は拓海の状況判断にある。モモを心配する反面、外出させるリスクが自分に降りかかってこないかと自己防衛に入ってしまっていたのだ。結果として自己防衛が強くなりモモの事を後回しにしてしまったのではないだろうか。

 そして考えに考え抜いた結果、拓海が出した答え

 

「まぁ……あれだ」

「なによ?」

「どっちにしても同じだったと思うのだが……」

 どうやら、3を選んだらしい

「はぁ?」

「ようするに、こうやって時間が経てば治っていたわけだし家に居ても問題は無かったはずだ」

「病人を治るまで放置させておくその考え自体が理解出来ないわ……」

 晴菜は拓海の言葉に呆れ返っていた

「しかしだな、病院に連れて行って治ったとしても後遺症までは治せないだろう?」

「だから、早めの処置をしておけばこんな事にはならなかったんじゃないの?」

「病気に早めも遅めも無い!」

「言っている意味がわからないんだけれど……しかもどうして誇らしげに言うの?」

「だが、何を言ったところでこうなってしまったのは仕方が無い」

 何故にこうも簡単に割り切って言えるのか疑問に思うところである

「確かに……」

「だが、断片的には覚えているらしいな」

「そうなの?」

「恐らく」

「雑な言い方ね……」

 すると、二人の会話に割り込む様に

「拓海様、中に入らないのですか?」

「ん?あぁ、悪い」

 玄関先に立っていた晴菜は溜息を吐きながら

「はぁ……なんとなく事情は分かった」

「そうか、わかってくれたか」

「じゃぁ、私も記憶が戻るまで手伝ってあげるわ」

「……え?」

「これ以上、拓を放って置いたら危ない方向に走りそうだから」

「だから、なぜそうなる……」

「まっ、そう言う訳だから」


 晴菜はそれだけ言い残すと玄関の扉を開けて外に出て行った

 結局、拓海は何も言い返せずに玄関先に佇むだけだった。拓海はモモに視線を配りながら思う。いったい、どうすれば記憶データが戻るのだろうか?果たして、戻る事はあるのだろうか?

 苦悩する拓海の先には、どんな結果が待っているだろうか?

 その答えはまだ分からない。

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