13話 選択ミス?
そんなこんなで家に帰ってきた訳であるが、まだ肝心の問題は解決していない。拓海と晴菜は玄関を上がりモモを連れてリビングへ戻ると現状を再認識するが、状況はまさに振り出しに戻ったかのようであった。
晴菜は背負っていたモモをソファーに寝かせると拓海に視線を向け
「それで?」
「なんだ?」
「結局、帰ってきちゃったけれど?」
「そうだな」
何の疑問も抱くことなく当然の様に言い返す拓海に晴菜は溜息を吐くと
「はぁ……こっちは遅刻覚悟で付き合っていたというのに」
「遅刻?……そういや学校があるんだった!」
晴菜の言葉を聞き我に返ったように拓海は言う
「……」
「クソっ!なんてことだ……これでは完全に遅刻ではないか!」
「あのね……なんでそんな、いつもは遅刻していないんだ的な言い回しが出来るわけ?」
何故か頭を抱えている拓海を晴菜は呆れ顔で見ていた
「違う、俺がじゃない」
「はっ?」
「晴菜が遅刻したら俺の授業に遅れが出てしまうだろうが!」
まさに親が子供を注意しているかの様な迫力で、どうでもいい様な言葉を拓海は晴菜に言い放つ
「…………」
何を言っているんだと言わんばかりな表情で拓海を見つめる晴菜に
「故に晴菜が遅刻すると困る」
「言いたい事がなんとなくわかってしまうのが空しいわ……」
「わかってくれればいい」
頷きながら言う拓海に晴菜は溜息を吐きながら
「拓が授業をまともに受ける気がないことくらいわかっているけれど、それはようするに私が授業受けないと内容が分からないと言いたいんでしょ?」
「うむ、まったくもってその通りだ」
自信満々に言う拓海である
「あんた……どうやってこの学校へ入学出来たの?」
「まぁ、俺の実力ってやつだな」
「もはや突っ込む気にもなれないわね……」
流石に晴菜は言い返す言葉も出ないほど呆れ返り頭を抱え込んでいた
開き直ったように拓海は口を開くと
「今回は仕方ない」
「仕方ないって……遅刻しても学校には行きなさいよ」
「バカやろう!モモを見捨てて行けるか!」
拓海はソファーに横たわるモモを力強く指差しながら言い放つ
一方の晴菜も拓海の台詞に一瞬返す言葉が見つからなくなってしまう
「くっ……確かに言い分はわかるけれど、都合のいいところで言うわね」
「人助けに都合が良いも悪いもないのだよ」
「なんか拓にそういう台詞を言われると腹が立つわね……」
「そういうことだから晴菜は早く学校へ行くのだ。俺はここに残る」
と言いながら拓海はソファーに腰掛ける
「何だか腑に落ちないけれど、私としても休む訳にはいかないし」
「そうだな。休むのは良くないな」
拓海は何とも偉そうに腕組みをしながら言い返す
「あんたに言われたくないわ……」
「そろそろ、一時限は終わった頃だろう。早くしないと次の授業が」
「わかったわよ!行くわよ、行けばいいんでしょ!」
「うむ、わかればよろしい」
そして、拓海は家を出て行く晴菜を見送っていた
嵐の後の静けさ、晴菜が去って行き家の中に残されたのは拓海とモモ。
拓海はソファーに横たわるモモを見て今までの流れを頭の中で整理し出していた。
まったく、つい数時間前までの出来事を忘れてしまうとは鈍感などと言うレベルでは無く、これはただのアホである。
「モモ、大丈夫か?」
ようやく、当初の目的に話を戻した拓海。呼びかけながらモモの頭に手を触れると、先程よりも体温が下がっていた。恐らくは、体内の冷却機能でも作動したのであろう。
(ね、熱が下がったのか?)
モモの体に触れながら拓海は安堵していた。まぁ、最もこうなった理由は何なのかわからないが結果良ければ全て良しがモットーの拓海にとってみれば、なんとかなるのかもしれないという思いであった。
まぁ、結果良ければ全て良しなどと言うが拓海の行いが良い結果で表れた事などは一度も無いのだが……
すると、モモの体がピクリと動き
「気がついたのか!」
拓海は抱かかえながらモモに言うが次の瞬間、衝撃の言葉が返ってくる
「…………誰ですの?」
「……はっ?」
モモの言葉に拓海は目を丸くさせ拍子抜けた声を漏らしてしまう
「誰って?俺だよ!拓海だ。わからないのか?」
「?」
拓海の腕の中でモモは首を傾げていた
何と言っていいか困ってきた拓海は
「あぁ、えぇ~と……あれだ、モモの御主人様だよ」
「御主人様……なのですか?」
「そうだ。思い出したか?」
拓海の問いにモモは少し悩んだ表情を浮かべながら
「すみません、御主人様がモモに何を思い出したと言っているのかがわかりませんですの。それは、何か大事なことなのですか?」
「……えぇ~と」
拓海は抱えていたモモから手を離すと面と向き合い
「どうしましたの?」
モモは拓海を下から見上げるようにして心配そうに言い寄る
(こ、これは……世間一般的に言う……)
「き、記憶喪失というやつなのか!」
「ひゃっ」
拓海が突然に言葉を発した為に向いに居たモモは驚いてしまう
「あっ、すまん……しかし、これはどうしたものか」
「御主人様、大丈夫ですの?」
「ま、まぁ……気持ち的には大丈夫でないが」
拓海にとってみれば、御主人様と直球で呼ばれることに慣れていないが為にモモとのやり取りが不自然で仕方が無かったのだ。本音を言えば、こう呼ばれること自体は嬉しい限りなのだが急な環境の変化に流石の拓海も順応する事が出来なかった。
「だが、どうしてこうなった…………ん?」
(もしかして……)
拓海はモモを見ながら思っていた。
倒れる前までは何ともなく、復帰したと思ったらこの有り様。という事は、直接的な原因として考えられるとしたら高熱を出した事による影響なのかもしれない。
冷静になって考えてみよう。
普通の人間なら高熱と言っても風邪等の病気で治れば事は収まる。だがしかし、モモはメイドロボットである。そう、人型ロボットなのだ。
つまりは機械な訳なのだから、単純に考えて熱に弱い。恐らくだが、何らかの形でショート的な何かが起きたのではないか?と思ったりする。
でもロボットとは言えモモは元々、二次元キャラだったはず。なのに、何故こうなってしまっているのかなど拓海には理解出来る訳も無い。
だが、そんな彼にも一つだけ考えうる事があった。
(こ、これは……またしてもフラグが立ったのか?)
まさかのフラグ発生。どこで、それが現われていたのかなどわかるはずもないが決して良いイベントでないということは確かである。
そんな事を考えて頭を悩ませていると
「御主人様、どうしましたの?」
「なんというか……御主人様も良いのだが、いつも通りに呼んでくれた方が俺はしっくりくるのだが」
「いつも通り?御主人様は御主人様なのです」
「いゃ、そのだな……名前で呼んでくれと言うことなのだが」
流石に拓海もいつもと違うモモの対応に困っていた
「名前なのですか?」
「うむ」
「わかりましたですの」
と笑顔で言い返すモモに少し安心する拓海
「まぁ、なんとかなるか……」
「そう言えば、お掃除しているところでしたの」
モモは思い出したかの様にソファーから体を起し立ち上がった
「あっ、ちょっと待て!」
「なんですの?」
「掃除をしていた事は覚えているのに何故、俺は忘れられているわけ?それは俺と居た思い出より掃除をしていた行いの方が強いというのか……」
何故かそう言う時だけは察しが良い拓海
掃除=ゴミと考えたとすると、拓海はゴミ以下と言うことになる。
果たしてモモの中には拓海の思い出がどのような形で残っていたのだろうか?
「そんなつもりで言ったわけではないですの……」
「す、すまん!泣くな、モモ」
「はぃ……なのです」
「ふぅ」
なんとか事なきを得たと言った表情で溜息を吐く拓海。どうやら、こういうところは変わっていないらしい。
悲しげな眼差しを向けるモモを見詰めながら拓海は思う
(もしかしたら、どこかで選択を間違ったのか……?)
選択肢ミスをして知らぬうちにモモの好感度を下げていたのだろうか?と拓海は思っていたのだ。
思い当たる節があるとしたら、恐らくは今回のイベントなのかもしれない。今朝にモモが倒れだしたところで発生した、イベントフラグ。あれは、救出イベントだろう。
王道かつ、ベタにして一番と有効性のあるフラグである。弱っている子を格好良く助ける、これだけで好感度はグンっと上がるのだから。言わば人柄が物を言うのかもしれない。ゲームの主人公は勿論、見知らぬ子だろうと女の子ならどんな子にでも優しくしてしまうのが、お決まりなのでゲーム内ではこのイベントが後々に大きく影響される事もあるのだ。
しかし、現実で言う主人公の拓海はフラグ発生時にモモの心配こそしていたが選ぶ選択肢は自分の事しか考えていなく、最終的には晴菜に任せていたと言う最後の最後まで他力本願な思考であった。
最も、こうして時間が経てば治るのであれば晴菜が出した『病院に行く』という選択をする事は無いのでなかったのだろうか。外に出しても解決するはずがないと分かっていたのであれば、素直に断り家に残っていたならば結果も変わっていたのかもしれない。
この選択からモモの好感度が下がり、若干と晴菜よりになってしまっているのかもしれない。
だが、現実でステータスも何も分かるはずが無い。
故に、拓海が現状を把握出来るはずないのは当然のことなのだ。
モモが数時間前までの拓海との思い出を忘れているというのは、少し好感度が下がりましたなどと言うレベルではなく、記憶喪失と言っている時点でデータを初期化されている様なものである。
拓海の培ってきた思い出は消えてしまった訳であるが、果たして本当になくなったのだろうか?
だがもしかすれば、拓海の次に選ぶ選択次第で好感度が変わり記憶も元に戻る可能性もあるのかもしれない。