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11話 同情するなら金をくれ

第二章の始まり

 いつもながらに拓海は今日も深い眠りについていた。

 枕元の目覚まし時計すら無視し、まるで死んだようにピクリともしない拓海であるが、今日も彼を律儀にも彼女は起しに来るのだった。

 彼女は何のお構い無しに家に上がり込むと、階段を駆け上がり勢い良く扉を開けて部屋へと入ってきた。

 

「毎度毎度……拓、起きなさいってば!」

 入って来たのは晴菜であった。

 そして彼女が怒鳴った先で寝ていた拓海は

「……なんだよ……いま、いいところだったのに――」

「何がいいところよ。どんな夢よ、一体……」

「どんなって……ノーコンノーセーブで全クリ達成するところだったんだが」

「何だか一度、あんたの頭の中を覗いてみたくもなってくるわね……」

「手術ならお断りだ」

「そういう意味じゃないわよ!普通わかるでしょ?」

「えっ、違うのか?」

 拓海にここまでボケられると流石の晴菜も呆れて何も言えなくなってしまう。

 そう思いながら深く溜息を漏らしていると

「ところで何で晴菜がここに居るんだ?朝練があったんじゃなかったのか?」

「えっ?あぁ、朝練ね……ほ、ほら、私くらいになると午後の練習でも十分なのよ!」

 拓海の問いに若干、あたふたとした様子で答える晴菜に

「そういうもんなのか?」

「そういうものなのよ!」

「まぁ、その方が俺としては助かるから良しとする」

「あれだけ爆睡しときながら、なんでそんな偉そうに言えるのよ……」

「気にするな」

「はぁ……」


 毎度の事ながら幼馴染みに起してもらっていると言うのに、何故にそんな偉そうに言えるのか。

 むしろ、自分で起きようとせずに起してもらうと言う行為自体が当たり前と思っているからなのかもしれない。

 まったくとんでもない野郎だ。

 晴菜としばらくやり取りをしていると拓海は


「さてと、飯でも食うかな」

 そう言いながら下へ行こうと部屋を出ようとする拓海に晴菜は

「食べる物あるの?」

「はっ?」

「だって、この間に買い物行ったけど結局何も買えなかったじゃない?」

「…………はっ!しまったぁ!」

 拓海の鈍すぎるほどに呆れる反応に晴菜は

「マジで頭が痛くなってくるわ……色々な意味で」

「と、とりあえず!下に行けば何かしらあるはずだ!」

「何であんたは、そういう時だけは前向きになれるのよ……」

「伊達にどん底な人生を生きていない!」

「そんな台詞を格好よく言われても惨めにしか聞こえないのだけれど」


 拓海は晴菜に名言地味た台詞を言い残すと、颯爽さっそうと部屋を去っていった。



◇◇ ◇◇



 名言までも言ってはいたが、やはり不安でいっぱいの拓海。

 階段を下り、覚悟を決めリビングに入ると衝撃の光景が視界に飛び込んできた。

「モ、モモ!?」

 そこに居たのは床に倒れ込んでいるモモの姿であった。

 恐らく掃除をしようとしていたのだろう。

 近くには掃除機、辺りは転がったゴミ箱の中からゴミが散乱していた。

 慌てて拓海はモモの元へ駆け寄り体を起そうと抱えるが、触れたモモの体の局部からは湯気がたちこめ、大分熱を帯びていた。人間で言えば熱を出した。というところだろうか?

 だが、彼女はメイドロボット

 この場合はオーバーヒートしたと言った方が正しいのかもしれない。


 

(マズイ……これはマズイ。しかし、対処法がわからない)


 

 勿論、ゲームでも同じシーンはあるのだが研究所の人が現れて事なきを得るというはずなのだ。

 だが元々、モモという存在を生み出したのはゲーム会社だが設定上で開発したのはゲーム内に登場する研究所の皆様方。しかし、このモモを製作ゲームメーカーに連れて行ったところで解決する訳もなく、むしろ部外者として追い出されるのがオチだと目に見えている。

 現代の技術で彼女みたいな精巧に出来たロボットを造ることなど出来はしないはずだろう。

 モモの前で頭を抱えて悩みに悩んでいる拓海の元へ


「どうしたの?拓」

「あっ、晴菜?実は……」

 すると、晴菜の視線はモモに向けられ

「モモちゃんどうしたの!?」

「さぁ、それが俺にもさっぱり」

「酷い熱じゃない!」

「それはだな……」

「そんな事を言っている暇があったら救急車でも呼ぶとかしなさいよ!」

 そう言って受話器に手をかけようとする晴菜に拓海は

「ま、待て!晴菜!ちょっと、待て――」

「はぁ?この状況で何を待てというわけ?」

「いや、だからそれは……」

 

 拓海はモモを救急車に乗せ病院に運んだとしても何も解決しないと分かっているから晴菜を止めたのである。



(クソッ!この状況をどう切り抜ければ……)



 相変わらずどうしようもない事で酷く頭を悩ませる拓海だが、またしてもフラグが発生し選択肢が浮かぶ。



 1.『病院に行く金が無い』

 2.『ここは晴菜に任せる』

 3.『代わりに俺が行く』



 またも浮かび上がる選択肢だが、何故にこうも拓海の脳内は追い詰められると選択肢形式でしか状況判断を出来なくなるのか。恐らく、普段から自分で何もせず物事を頼りきりという思考だからこそ思いつくのかもしれない。

 さて、勿論この選択肢で一番選んではイケナイのは1.『病院に行く金が無い』だろう。

 当たり前だが、極貧の拓海にしてみればモモを病院に送り出す程の資金などは出せるはずもないのだ。

 言わば死亡フラグ確定である。

 そうなると自動的に2.『ここは晴菜に任せる』を選んでしまうことになる。しかし、それはそれで別の問題が生じてしまう。以前にも言ったが晴菜にはモモの姿が普通のメイド少女としか見えていない。

 これは勿論、晴菜に限ったことではないだろう。

 なので、このまま病院に連れて行ったところで意味などある訳が無い。

 しかし、拓海がそう思っても晴菜は何ら不思議に感じていない為に聞く耳などは持たないだろう。

 問題は、3.『代わりに俺が行く』何故にこんな選択を思い浮かんだのか分からないのだが……

 大体、代わりに自分が行ったところでどうしろというのだろう。自分で思っておいてなんだが。

 改造手術でも受けて来いとでも言うのか?

 何をどんな風に改造するかなどというのはさて置き、相変わらずに選択肢を選ぶのにどれだけ時間をかけて悩んでいるのだと思いたくもなってくる。

 そんな事は勿論知らない晴菜には通じる筈も無く彼女は受話器をとり、拓海の考えはあっけなく崩されてしまう。

 

「――はい。わかりました」

 と言って受話器を置くと晴菜はモモを背負い

「こんな高熱あるのに放っておけないでしょ!」

 どうやら拓海が悩んでいる間に晴菜が変わりに『2』の選択をしていたようであった。

 だが、拓海は

「って、ちょっと待って!」

「何よ?」

「待て!俺が行く!」

 まさかの選択肢変え。

 晴菜の選択ではなく3.『代わりに俺が行く』を選んだらしい

「……拓」

「な、なんだ?」

「そうは言うけれど、お金あるの?」

 晴菜の的をついた問いに拓海は我に返り

「……ぃや、無い!」

「はぁ……何だか見てるこっちが情けなくなってきたわ」

 溜息を吐きながら晴菜は呆れた様子で拓海を見ていた

「最初から分かりきっていたんじゃないの?じゃぁ、私も行くから」

「お、おぅ……」

「はぁ……結局はこうなるんじゃない」

「だが、計画通り」

「何が計画通りなの?しかも、何でそんな誇らしげな顔で言えるわけ……」

「まぁ、気にするな」

「まったく……」


 拓海の切り替えの早さに晴菜は、また溜息を漏らしていた。

 そして、二人はモモを連れて家を出て行った。


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