表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/9

話したいことがある

~5日前~


「よし、と。」

先日から書いていた手紙を一通り書き終え、ペンをインクに戻す。これは私の弟へ渡す手紙だ。弟は、村を出て、街で働いている。ここ4年ほど手紙を出していない。いや、出せないと言った方が誤解を招くことはないだろう。


出せないというのは他でもない。私は病におかされている。もう私もこの年だ。おそらく命はないだろう。少なくとも、親父よりは長生きしたんだから、それでいいではないか。


ただ、心配なのはプラタナスのことだけだ。地主の仕事など、2年前体を壊してからプラタナスに任せてある。特に悪いことも起こっていないようだ。


随分使い続けた椅子にこしかける。30年以上使っただろうか。

しかし、このうす暗い部屋には、椅子と机と、もうずっと閉め切ったままの窓と、壁に敷き詰められた本意外何もないのだ。テレビもラジオも、何もない。

コンコン、とドアを叩く音がした。


「お父さん、夕食ができたけど。」

「ウム・・・プラタナス、ちょっと用がある。」

「は、はい。」

思えば、私はプラタナスに呼ばれても、決してドアを開けずに部屋の前に飯を置かせていた。色々な誤解を招くとは思ったが、あまりプラタナスに自分の状態を知ってほしくはなかった。


ドアを開けてプラタナスを中に入れる。案の定、前よりやせ細ってしまった私の体を見て、声を失っているようだ。

「この手紙を出しにいってほしい・・・それから・・・あの居候を呼んでくれ。話したいことがある。」

「アリードさんですか?」

「ウム。」



コンコン、とドアを叩く音がした。

プラタナスが居候を呼んできたようだ。背中にバンジョーを背負いながら部屋に入ってきた

時々聞こえてくるあの音は、どうやら彼のものだったらしい。


「何かご用でしょうか。」

彼は、まさに放浪中といった姿で、あまりちゃんとした服を着ていないのだが、礼儀は備わっているようだし、特にプラタナスが困っている様子もない。外見より中身ができた人間のようだ。


「フゥ~・・・」

「・・・どうなさいました?」

「いや、お前のような奴がいるならもしかしたら大丈夫かと思ってな。」

「大丈夫・・・とはプラタナスのことですか?」


いやいやいや、初めて会う居候に向かって何を言っているんだ私は。まだ5分も話していないのに、大事な娘を任せられる相手を決めてどうするんだ。年でボケたとしか思えない。


「ところで、君は何故そんなバンジョーを持っているんだ?」

「これは・・・これには、今まであったいろんな人の心が詰まっているんです。」

「ウム、さしずめ、死者の魂と言ったところか。」


死者の魂・・・唐突にこんなことを言ったのは、これはボケてはいない。まあ、私の推測にすぎないのだが、夜になると聞こえる彼の音は、あまりにもさびしい。


「・・・なぜわかりました?」

「さあな。もしかしたら俺がもうすぐそれに加わるかもしれないからかな。」


もう死ぬ体だから。と口元でつぶやく。さすがに大きな声で言うのはさびしすぎる。


「・・・あの手紙に何を書いたんですか。」

「ああ、あれか。まあいいだろう。君にもいつか話さねばならなかったからな。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


~ファドゥーツ 村へ向かう列車内~


私は、ゴトゴトと揺れる列車の中で、目をこらして手紙を読み始めました。


「一番大事な話を始める前に、4年前のことから話す必要があります。」


そのために長くなってしまったことを許してもらいたい、と後からつけ加えたように書いてありました。


「4年前に、この村にドイツ軍が攻め込んできました。畑はたくさん燃やされ、家はもっとたくさん壊され、人は数えきれないくらい殺されました。ヴィオレッタはプラタナスを守るために撃ち殺されました。この世で初めて愛し愛してくれた人は、私の目の前で死にました。


その後、私は心を病みました。同情する必要はありません。むしろしないでください。この村のほとんどの人間が復興に取り組んでいるなかで、一人だけ家にこもるような者に同情はいりません。


心の病は、やがて私の体に伝染しました。それがちょうど2年前になるでしょう。医者に不治の病と診断されました。しかしプラタナスには言いませんでした。17歳の娘にそんなことを言うのはあまりにも酷だと思ったからです。


だんだん弱っていく自分に気付いた私は、部屋にこもるようになりました。こんな姿を娘に見せるのも、また酷だと思ったからです。あなたへの手紙も書けなくなりました。手紙を出そうとすればすなわち、娘に私の体を見られるからです。


私はこのころから村人に嫌われ始めました。金をたかく取りすぎたようです。しかしこれは病んでいたからではありません。金儲けをしたかったわけでもありません。これだけは信じてください。


しかしここに至って急に私の病状が悪化してきました。毎日プラタナスが作ってくれるご飯も満足に食べられなくなりました。


私の体はどれだけもつか、それさえわかりません。普通ならこのことをプラタナスに伝えるべきなのですが、ここまで娘をだまし続けてきた私に、今さらこんなことを言う資格はありません。こんなことを言っていても、もしかしたら私は今も、プラタナスがショックを受けてしまうことが怖いのかもしれません。



そして一番大事なことをこれからあなたに話します。


地主の仕事などはプラタナスに任せておけばよいです。あなたに一番任せたいのは他でもない、プラタナスのことです。もし私が死んだら、いや私は死ぬでしょう。あなたにプラタナスを任せたいと思う。


プラタナスは、これで母親と父親を亡くすことになる。娘はまだ19だ。そして娘の精神的支えになれるのはあなただけです。どうか村に来て、ここで娘を支えてほしい。


最後に、あなたをはじめ、たくさんの人をだましてしまった。本当にすまなかった。」

テストが終わって初の投稿!

でも理科はオワタ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ