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兄からの手紙

「私が死んだら、いや私は死ぬでしょう。君にプラタナスを任せようと思う。」

その一文が目にとまり、私は荷物をまとめて列車に飛び乗りました。


私はファドゥーツに住む普通のサラリーマンです。一つ他の人と違うところがあるとすれば、兄がある村の地主であるということでしょうか。なんの自慢にもなにませんがね。


今日もいつもの印刷業者に行き、並みの仕事をして帰ってくると、珍しく郵便受けに手紙が入っていました。小さい封筒に入っていたので中を見てみますと、とても長い手紙でした。

長すぎるので後にしようと思いパラパラと流し読みをしていました。



私の父も村の地主で、とても厳しい人でした。母が私たちが幼い内に死んでしまったのでなおさらでしょうか。常にルールを守り、身なりをただし、責任ある行動をするように教え込まれました。


私は父への反抗からか、街へのあこがれからか、独り立ちしてファドゥーツへ行きました。まあ、どちらにしても、無精者の私には地主なんて無理な話ですが。


こんな親不孝な私と違って、兄はとても立派な人でした。まさに父の理想通りに育っていたと言えるでしょう。


村の人たちにはとても優しかった父を見て、「僕たちにはあんなに厳しいのに」と文句をボソボソ言っていた私の隣で、兄は・・・あれは尊敬のまなざしというものでしょうか。よくわかりませんが、兄は父をとても尊敬していたようです。



私が村を出ていって数年、「チチ ヤマイ カエレ アニ」と兄から電報が来ました。帰れ、という言葉から見て、父は重い病であることが察せました。


しかし、勝手に出ていってしまった上に、長く帰っていなかったので、私は村に帰ることを少々ためらいました。ですが、死んでしまう前にせめて一目見たいと思い、結局村に向かいました。


家につくと、兄が出迎えてくれて、父の元まで案内してくれました。父はベッドに横になって眠りについているようでした。


「お父さん、お父さん。帰ってきましたよ。」

兄が呼びかけると、父はゆっくりおきあがりました。


正直声も出ませんでした。あの常に威圧感があった父とは思えないほどやせ細っていました。

「おう・・・よく来たな・・・」

声も昔のような張りもなくなった、弱々しいものでした。


臨終の際、皆をベッドの周りに呼び寄せて、力を振り絞るように私たちに語りかけました。


「明日から・・お前が・・・この村の地主だ・・・」

兄にそう言い、兄の手をしっかりと握りました。

「この村を・・・私が愛した・・・どうか頼む・・・。」

私も兄も、多分、父の口から「頼む」と聞いたのは、これが最初で最後だったでしょう。


私に対しては、一言一言かみしめるように、

「お前は、お前の道を歩めばいい。」

と言いました。もう意識がハッキリしているのかどうかわかりませんが、その目はしっかり私を見ていました。


そして最後に、ベッドの脇に飾ってある母の写真を懐かしそうに見て、

「もう・・・そっちに行くからな。」

と何度も言いました。


私も兄も、言葉を失ってただただ見守ることしかできませんでした。


父の声もだんだん弱く、聞こえなくなってきました。私は、最後の一言までしっかり胸に刻もうと、耳を澄ましていました。すると父は、フッと笑ったあとに、

「だがあの佃煮だけはゴメンだぞ。」

と言ったきり、何も言わなくなりました。



次の日から、兄が新たな地主になりました。兄は、父の、この村を愛する心、そしてなにより家族を愛することをしっかりと受け継ぎました。


それからのことは時々来る兄の手紙で知りました。村に帰ったのは、兄が妻をもらったときと、二人に娘ができたときぐらいですかね。


兄の奥さんはヴィオレッタという、かわいらしく、それでいて従順な奥さんでした。兄にもこんなかわいらしい奥さんがくるものなのだと少々驚きました。


娘の名前はプラタナスといいます。小さいころしか見たことがないのですが、とても奥さんに似て、あまり兄に似てないというか・・・まあ、女の子だからしょうがないんですがね。


一度だけ家族でファドゥーツに遊びに来たこともあります。その時は私が街を案内しました。兄にはあまり都会の空気は好かなかったようですが、義姉さんとプラタナスはとても楽しそうでした。


しかし、4年前を境に急に連絡がプツリと途切れて、それっきりです。



その兄からの4年ぶりの手紙を、パンを片手に開きました。あまりにも長すぎるので、とりあえず流し読みすることにしました。そして最後のページまで見たところで、パンを食べ終わりました。


しかし、あまりにもおかしな内容がそこに書いてあったので、パンをのどに詰まらせてしまいました。

ちゃんとパンをのみこんでから、しっかりと文面を見ました。


「私が死んだら、いや私は死ぬでしょう。あなたにプラタナスを任せようと思う。」

目を疑いました。「死ぬ」という言葉が目に食いついてきました。

私は何も考えず荷物をまとめはじめました。


翌日の朝になって、会社に長期休暇のお願いを取って列車に飛び乗りました。


私がこの街に来た時よりはましになってはいるのですが、やはり列車は酔います。なので、列車では絶対書物を読まないと決めているのですが、今回ばかりはそれも忘れて、手紙の最初から一言一句見逃さないように読み始めました。


「お元気だろうか。街の生活にも慣れ、充実した日々を送っていることだと思われる。

一つ、謝っておくべきことがあります。君もわかっていることでしょうが、4年間何一つ連絡をとらなかったことです。」


弟に向かって何をかしこまってと思うものですが、私は昨日見た「死ぬ」という言葉がまだ目に焼き付いているので、これに書かれていることがとても大事なことだとはわかっていました。


そのため、内容ばかりに目がいって兄の文の書き方など気にする暇はなかったと思います。

そろそろ一つぐらい違うの書きたいなぁ・・・

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