透明の党名があったら……
もしも政治の世界に、完璧に「存在感のない」政党が存在したら……?
選挙シーズンにふさわしい(?)、少し不思議でユーモラスな政治風刺ショートショートです。気楽にお楽しみください!
透明の党名があったら……」
次期衆院選を控えた政見放送のスタジオで、ベテランアナウンサーの佐藤は頭を抱えていた。手元の原稿には、立候補した各政党の名前が並んでいる。
「……えー、次は……党の政見放送です」
佐藤が息をのんだ。原稿には、確かに政党名が印刷されているはずなのだ。しかし、そこには何も書かれていないように見える。特殊な特殊インクを使っているわけではない。彼らが選んだ党名が、文字通り「 (※全角スペース4個)」だからだ。通称、「透明党」。
画面が切り替わると、無地の白背景の前に、どこか影の薄い男がポツンと立っていた。党代表の透明田氏である。
「有権者の皆様、こんにちは。党代表の透明田です。我々『 』は、徹底的なクリーン政治を目指しています」
透明田が熱弁を振るうが、テロップ欄には何も表示されない。放送事故を防ぐため、テレビ局側は苦肉の策として政治団体の枠に「[表示不可]」とだけ薄くグレーで記載していた。
「我が党の強みは、何と言っても圧倒的な存在感のなさです! 政治資金パーティーを開いても誰も気づかないため、裏金問題とは無縁! 街頭演説をしても通りすがりの人に『誰もいないのにスピーカーだけ鳴ってる』と思われるため、道行く人の邪魔をしません!」
テレビの前のお茶の間では、視聴者が混乱していた。
「お父さん、この番組、音声だけ出て画面の字幕バグってない?」
「いや、これが噂の『 』だよ。ほら、選挙ポスター掲示板見ただろ?」
近所の掲示板では、他の候補者がギラギラした顔写真とカラフルな党名を掲げる中、4番の枠だけが「完全な透明アクリル板」になっており、裏の公園のツツジが綺麗に透けて見えていた。映えスポットとして女子高生に人気すら出ている。
そして迎えた、開票日の夜。
開票速報特番のスタジオで、キャスターが震える声でニュースを読み上げた。
「……速報です! 当確が出ました。比例代表で『 』が1議席を獲得です!」
画面の棒グラフには、他の政党のカラフルなグラフの隣に、輪郭線だけの透明な柱がスーッと伸びている。
「なお、無効票の集計中に『何も書かれていない白票』だと思って破棄されかけた票が数千票ありましたが、よく見ると超極細のペンで『透明』と書かれていたため、ギリギリで有効票と認められた模様です」
翌週、国会に初登院した透明田議員。
記者がマイクを向けて「初登院の感想は?」と尋ねると、彼は爽やかな笑顔で答えた。
「いやあ、警備員に3回止められましたよ。『一般の方の立ち入りはご遠慮ください』ってね。これぞ我が党の真骨頂です」
その日、国会の議席一覧表には、誰の席ともわからない「ぽっかり空いた余白」が、静かに存在感を放っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
もし本当に「透明な党」が存在したら、政治ニュースが少しクスッと笑えるものになるかもしれない……そんな妄想から生まれたショートショートです。
「存在感のなさ」を武器に国会へ進出した透明田議員ですが、今後の議会発言や法案提出で果たして存在を認識してもらえるのか、生暖かく見守っていただければ幸いです




