第二話
改めて全員が席に着くと、茶と菓子が供される。第一シャオジェが軽く茶を含んで喉を潤すと、一同を見回して微笑み、口火を切った。
「では、改めて自己紹介を。わたくしは第一シャオジェ、先程も言ったけど、イーと読んでね。音楽が好きなの。」
そう言って第一は楽器を演奏する真似をする。あの構えは琵琶か。
「わたくしは第二シャオジェ、アルよ。宝飾品が好きだわ、美しいでしょう?」
先ほど泣き出しそうになった第八を取りなしてくれたシャオジェだ。アル姉様は美しい宝飾品が好き、と覚える。
「アル姉様、何を美しいと思うかは人それぞれでしてよ。わたくしは第三シャオジェ、サンと呼んでね。わたくしは植物が好きだわ。いくら見ていても飽きないの。」
第三は第二の口振りを窘めながら、自分の好きな物を主張する。
「……スーは、第四シャオジェ……。盤上遊戯が、好き……。」
鈴を転がすような可愛らしい声だが、自信のなさが現れるおどおどとした態度に、第八は目を瞬かせた。
「スー姉様、もう少しお話になっても……いえ、申し訳ありません。わたくしは第五シャオジェ、ウーと呼んでね。わたくしは本が好き!バーは本、好きかしら?まだ読めなかったら、ウー姉様が読んでさしあげます。だからたくさんお話しましょうね?」
第四におしゃべりを促したら泣かれそうになったので、諦めて自分のことを話し出す第五。ゆったりした上のシャオジェたちに比べて、優雅さを失わないギリギリの線で、怒涛のおしゃべりをする。
「わたくしは第六シャオジェよ。リォウと呼んでくださいな。ウー姉様の読書会はなかなか楽しくてよ、バーも今度ご一緒いたしましょう。」
微笑みを向けるのは、さっき転んだ第八に真っ先に駆けつけたシャオジェだ。第六は確か――
「……第七シャオジェ、チーよ。あなたとは誕生日が季節ひとつ分しか違わないの、これから一緒に学んでいきましょうね。」
少しぎこちなく微笑みながら、第七が挨拶する。三ヶ月しか違わないなら、第七もまだこういう場にあまり慣れていなくて、緊張しているのかもしれない。
皆の自己紹介が終わった所で、第八も自己紹介しようと頭をひねる。
「姉様方、温かく迎えてくださってありがとう存じます。わたくしは……特にこれが好きと言えるものは、まだないかもしれません。これから色んな物に触れて、見つけていきたいと思います。」
微笑ましげに第八の自己紹介を聞くシャオジェたち。一通り挨拶が終わった所で、思い思いに茶や菓子に手を伸ばす。
第八は、見たことのない綺麗なお菓子に釘付けだった。茶色い見た目だが、皮が美しく飾り切りされており、よく見ると皮自体が何層にも重なっている。甘い水果の香りもして、とても美味しそうだ。
「バーは初めてかしら?アップルパイと言って、外つ国から伝わったお菓子なの。わたくしたちの今のお気に入りなのよ。」
目を輝かせてパイを見つめる第八を見て、第一が声をかけ、お手本を見せるように切り分けて食べる。
第八は第一の優雅な動きを真似て、初めてのお菓子を口にする。
「……!」
サクサクとした生地の食感の中に、甘酸っぱく柔らかい苹果の果肉。口いっぱいに広がる黄油の香りがたまらない。
第八は、ついお行儀など忘れて、満面の笑みでアップルパイを頬張る。
他のシャオジェたちは、半ば苦笑し、半ば興味深そうに、子どもらしい第八の反応を見守る。
ひとしきり満足したらしい第八は、ふと顔をあげて、いいことを考えた!という顔で言う。
「これ、お肉を詰めても美味しそうじゃないですか?饅頭みたいに。」
いい笑顔の第八と違って、その場は一瞬凍り付いた。
「……まあ、バーったら。面白いのね。パイは甘いものでしょう?」
第六がくすくすと笑う。すると、ふっと場の空気が緩んだ。
「バーは発想が自由なのね。」
他のシャオジェたちも、そう言って微笑みながら温かく第八を見守る。
第八はシャオジェたちの反応を不思議そうに見ていたが、『パイは甘いものだ』と言われれば、そうなのかと思って何も言わなかった。
第二はそっと、第一の様子を伺う。
第一は普段通りに微笑んで見えたが、無意識に手を整えて握っていた。
パイの餡を変え、自国でも美味しく作れる工夫。それは最近第一の頭を悩ませている課題でもあり、試行錯誤している途中だった。
何か目新しいものを、と考えるばかりで、いつも食べている点心へ視点を変えることはできなかった。
しかし、バーは自然とやってのけた。
(――何だか胸がもやもやするわ。)
心配そうに第一を伺う第二と違い、第六は微笑みながらも第八の心配をしていた。
第一に自覚があるかわからないが、彼女は能力のあるものを見る目が、やや鋭い。それは皆がうすうす感づいていることで、第一の前では能力をひけらかさないよう、気を付けている。
第一シャオジェという立場に見合う重責、後継者教育、それらが第一の肩に重く伸し掛かっている。そしてそれを全うしようとする生真面目さが、第一を少し脆くしていた。
第八はあまりにもあっけらかんとしていて、第一の変化に気づいた様子はない。第一の気持ちが嫉妬に、そして悪意に変わらぬよう、自分が目を配ってあげなくては。第六はそう思っていた。




