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神源華の翡翠 外伝 玉華の章  作者: さわば


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第一話

 それは、今から二十八年前の話。


「さあ、シャオジェ。準備はよろしいですか?」


 後宮の一角。今日は秋の庭で、シャオジェ達が集まるお茶会が催されている。心配そうに少女を見ている侍女が、扉を開ければ会場だ。


「ええ、もちろん。姉様たちに会えるのを、心待ちにしていたのよ。」


 五歳になったばかりの少女――第八シャオジェは、弾む心持ちが声に滲むのを抑えきれない。


「皆様、シャオジェが仲良くできるいい子かどうか、きちんと見ておいでですからね。」

「ちゃんとわかっているわ。早く開けてちょうだい。」


 心配して念を押す側付きの侍女に、ちゃんとできる所を見せようと姿勢を正す。

 幼いながら優美な仕草。流れる髪は光を集めて束にしたような美しい黄金。キラキラ輝く瞳は紫紺色。身につけている服飾品は、子どもたちだけのお茶会ということもあり少しラフな意匠ではあるが一級品。

 自分の仕えるシャオジェの姿を確認し、少し安心した侍女が扉に向き直る。


「第八シャオジェがいらっしゃいました。」


 侍女が発言すると、内側から扉が開く。

 秋の庭と名付けられているだけあって、秋の草木が多く配置され、目を楽しませる。第八は緊張で、それらを愛でる余裕はなかったが。

 今まで叩き込まれてきた落ち着いた優美な足取りで庭に踏み入り、石畳を進んで行くと、卓のある東屋の手前で礼を取る。


「皇帝陛下とジンツァイの子、第八のシャオジェがご挨拶申し上げます。本日はお招きありがとう存じます。皇族の末席を担う者として、よろしくご指導くださいますよう、お願い申し上げます。」


 最近ずっと練習していた口上を全て淀みなく言えて、第八は晴れ晴れとした高揚感に包まれた。しかしここで礼を崩してはいけないと、厳しく母・ジンツァイに躾けられている。

 礼儀は守らなくてはならない。仲良く出来るいい子だと思ってもらわなければ、ひとりぼっちになってしまう。

 母の言葉を思い出しながら、上位者の言葉を待つ。それは瞬きの間だったが、第八にとっては随分待たされているように感じられ、否が応でも緊張感が高まる。

 

「第八の。どうぞ楽になさって。私達は皆、同じ家の子、姉妹なのです。これから仲良くしていきましょう。」


 最上位者だろう子どもの声がして、ビクリと第八の肩が跳ねたが、とても穏やかで優しい物言いにホッと体の力が抜ける。


「ありがとう存じます。」


 優美さを失わない様にゆっくり、礼を解いて顔を上げる。

 第八がまっすぐ前を見ると、一人のシャオジェと目が合う。金の髪と紫の瞳は、自分と同じ皇家に生まれた者の色。

 きっと、この人が今声をかけてくれた、最年長のシャオジェだ。優しそうに微笑みをたたえている。第八はそう思った。

 

 高位の家であればあるほど、一族の子どもは一族全体で育てるという気風があるが、皇族は特に顕著だ。皇帝を指導者とした国の体制上、皇位継承順の序列はある。しかし皇族はひとつの家族であり、子らは皆等しくシャオジェであるとされる。

 

「第八では長いでしょう?これから、私的な場では、バーと呼んでも良いかしら?わたくしはイーと呼ばれているわ。」

「はい、もちろんです、イー姉様。」


 あだ名を許されて安心し、微笑みながら返事をすれば、第一シャオジェは笑みを深くする。


「さあ、お座りなさい、バー。皆、順に自己紹介をしなくてはね。」

「はい、イー姉様。」


 第八はしずしずと移動するが、滅多に無い重圧の中、一人で挨拶するという役目を終えて若干気が緩んでいた。

 東屋に入ろうとしたところで、盛大に転んでしまう。裳裾を踏んでしまったらしいと気づいたのは、じんじんと打った所が痛み出してからだ。座っていたシャオジェ達は驚いて息を呑んだ。


 失敗した、とショックで呆然とする第八に、サッと手が差し伸べられる。

 顔を上げると、自分とそう歳の変わらない様に見えるシャオジェが、席を立って目の前に跪いていた。その視線は、第八に怪我がないか走らされ、心配そうに揺れている。


「大丈夫?どこか痛い?」


 彼女の労しげな視線に、緊張の糸が切れてしまった。


「……ごめんなさぁい……!」


 きちんと出来なかった、嫌われてしまうと思った第八は、見る見る目に涙をためていく。


「泣いてはいけません、バー。」


 ふわりといい香りがして、もう一人傍に寄ってきた。ビクッと肩を震わせる第八の頬を、そのシャオジェが優しく撫でる。第一と近い年回りに見える。


「泣いても、失敗が無かったことにはならないでしょう?こういう時は、何事も無かったように立ち上がって、笑うのです。お部屋に帰ったら、たくさん泣いて良いですからね。」


 蜜のように甘い声で、ゆっくり諭される。聞いている内に涙も引っ込んだ第八は、こくんと頷いて、最初に手を差し伸べてくれたシャオジェに笑いかけ、自力で立ち上がった。

 自分がどう振る舞うべきか、思い出したのだ。


「お騒がせ致しました。」


 軽く頭を下げると、サッと侍女が寄ってきて、服についた砂ぼこりを取り、怪我がないか確認してくれる。

 そんな第八を見て、一同ホッとした様子で、寄ってきたシャオジェ達も席に戻っていった。

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