箱根駅伝を見ていたら彼女が見知らぬ男と腕組んで応援してた
ヒント:私の作品
『首位交代!首位交代!箱根の山で今年もドラマが待っていました!』
『なんという男だ!中継所では三分以上もあったトップとの差をひっくり返しました!』
『信じられません!区間記録よりも二分も早いペースです!』
『白畑君、乗り物に乗ってませんか?』
『白畑夕月がとんでもない歴史を作ろうとしています!』
正月、家族で箱根駅伝を見ていた。
別に俺は特に興味は無いが、テレビで流れているからコタツに入りスマホでゲームをしながらチラ見るする程度。
しかし今年の箱根駅伝は往路の山の区間で物凄い活躍する選手が走っていたため、面白くてスマホから目を離してじっくり見てしまった。
「え? 麗?」
なんとなく沿道を見たら、見知った顔を見かけた。
山本 麗。
高校のクラスメイトで、俺の彼女。
その麗が男と腕を組んで笑顔で応援をしていたのだ。
「ま、まさかな……」
今日は麗は家で家族とゆっくり過ごすと言っていた。
家から遠く離れた箱根に居る筈が無い。
心臓が痛い。
嫌な感覚に襲われ吐き気がする。
不安に胸が締め付けられそうだ。
いやいや、自分の彼女を信じてやらないでどうする。
きっと見間違いに違いない。
「あれ、あそこにいるのって、お兄ちゃんの彼女じゃない?」
だが無情にもカメラは再度同じ場所を映し、そこには間違いないく麗そっくりな人物がいて、心底楽しそうな笑顔で応援をしていた。
「隣にいるのって……あ~あ、お兄ちゃん可哀想に」
「っ!」
妹の言葉のせいで、考えたくなかった事実を否応が無しに意識させられてしまった。妹は父さんと母さんに注意されたが、もう遅い。遅すぎる。
俺は浮気されているのか?
クリスマスイブに初めてキスをした。
初詣で振袖を着た麗は俺に褒められて恥ずかしそうに照れ、甘酸っぱい空気の中でお詣りをした。
真っすぐに恋をしていると思っていたのは俺だけだったのか。
いや、やっぱり信じられない。
だから直接麗に聞いてみることにした。
スマホを操作し、麗にメッセージを送ってみる。
『なぁ、何してる?』
すぐには返事が来なかった。
応援中だからだろうかと、不安が更に募る。
『何って、家でゴロゴロしてるよ?』
しばらくして、こんな返事が来た。
ご丁寧にコタツでゴロゴロしている可愛いスタンプ付きだ。
そうだよ。
やっぱり他人の空似だったんだ。
麗が浮気なんかするわけがない。
『だよな。箱根駅伝見てたら、麗にそっくりな人が沿道にいたからびっくりしてさ』
そんな人がいたんだ、私もチェックしてみる。
きっとその手の返事が来てこの話は終わり。少しでも疑いかけた自分を反省してこの件は笑い話で終わるに違いない。
そんな俺の希望的観測は見事に打ち砕かれた。
麗からの返事が来ない。
いつもは爆速で答えてくれるのに、全く音沙汰がない。
どうしたのだろうかと、消えかけていた不安が再び蘇る。
返事は一時間以上経ってから来た。
『ごめんね』
ああああああああああああああああ!
--------
「いやだ、学校に行きたくない」
なんて駄々をこねたけれど、母さんに家を叩き出された。
あの日以来、俺は部屋に引きこもって現実逃避し続けていた。
でも現実は待ってくれない。
このままずっと登校拒否し続けるなんてことが無理だなんて分かっているさ。
しかしどんな顔していけば良いんだよ。麗とは同じクラスだって言うのに。
どんよりとした気分で、学校へと向かった。
「おはよう」
「あけおめ~」
教室内はすでに人が多く新年の挨拶をして賑わっていたが、麗の姿は見えない。
少しだけ安心した俺は、人の目から隠れるように気配を消して自席へと向かった。
「ちょっと夏彦! なんでずっと無視するのよ!」
来た。
この声は麗だ。
「何かあったんじゃないかって心配したんだからね! 少しは返事しなさいよ!」
俺は座ってうつむいたまま動けない。
今、麗の顔を見たら何を言ってしまうか分からないから。
「それともスマホが壊れたの?」
「…………」
「え、リアルでも無視する気? どうしたのよ、私何か怒らせることした?」
「…………」
何か怒らせることをした、だって?
マジで言ってるのかよ。
「あんなことしておいて……よくそんなことを……」
「え?」
麗にとって、浮気なんて当たり前のことだったというのか。
バレても大して反省しない、ちょっとしたことだと。
「あんなことって……まさか箱根駅伝の時の事? もしかしてあれだけのことでそんなに怒ってるの!? 信じられない!」
「信じられないのはこっちだよ! どうして……どうして……!」
「うわ、ちょっと、止めてよ。何で泣いてるの!? 皆がこっち見てるって」
「俺は麗のことを信じてたのに、いや、今でも信じたいって思ってるのに、どうしてそんな態度なんだよ。あり得ないだろ!?」
「夏彦待って、待ってよ。ちょっと待ったああああ!」
感情が爆発して激しく詰め寄るところだった。
麗が全力で叫んでストップをかけなかったら何をしたか分からない。悔しいけれど助かった。
裏切られたことは腹立たしいけれど、それでも俺は麗が好きなんだ。
好きな人に嫌な言葉をぶつけたくなんかない。
「…………」
麗は顎に手を当てて、スマホの画面を見ながら何かを考えている。
そしてやがて何かに気付いたかのようにハッとした顔になった。
「ああ、そういうこと。だからそんなに怒ってるんだ」
やっと分かったのか。
というか、そこまで考えなければ分からないだなんて酷すぎるだろ。
「てっきり家にいるって言ったのに駅伝を見に行ったことを怒ってるのかと思ったけど、私が浮気したって勘違いしたのね」
「勘違い……だって?」
「そう。あの日は家族に誘われて急遽箱根に行ったの。一緒に居た人は……親戚の人で浮気相手なんかじゃないわよ」
「…………」
なんでそこでスムーズに親戚の人だって言ってくれないんだ。
誤魔化そうとしていると感じてしまうだろ。
「当然でしょ。私の彼氏は夏彦なんだから」
「…………」
「誤解しちゃうシチュエーションだったのは分かるし、私もちゃんと説明しなかったのが悪かったとは思うけど、信じてくれなかったのはちょっと悲しいな」
その話を俺に信じろというのか。
あんなに幸せそうに腕を組んでいて、その相手がただの親戚だなんて本当に言い張るつもりなのか。
「信じられる訳……ないだろ」
「え?」
「あれが彼氏じゃなくて、麗の家族とかの可能性はもちろん考えたさ。麗は浮気なんかするような人じゃないって信じたかったさ」
「じゃあどうしてそんなに……」
「だって!」
歯を食いしばるが、あの時以来、大量に溜まっていた気持ちはもう抑えきれなかった。
「麗が可愛いから!」
「え!?」
ここから先の麗の顔を俺は覚えていない。後にそのことを一生後悔することになる。
だって照れまくって超可愛いはずだから。
「可愛すぎるから!」
「ま、待って」
「それに優しいし、笑顔が可愛いし、気が利くし、真剣に勉強している顔も可愛いし、話してて楽しいし、何もしてなくても可愛いし」
「夏彦待って!」
「日本一、いや、世界一の美少女だから男なら放っておけない!だから俺なんかよりも、遥かに良い男が寄って来る!俺よりも麗を幸せに出来る甲斐性のある奴が寄って来る! そんな奴と出会ったら、俺よりもそいつを選ぶはずだって思ってしまうんだよ!」
麗を信じきれないのは、麗を好きすぎるが故。
麗が最高の女だと信じているが、その最高に相応しい自分では無いと思っているから。
彼女に相応しい最高の男がいるならば、そっちの方に心が動くのは当然だろ。
「麗みたいな最高の女性には、俺なんかよりももっと……」
「ああもう、黙りなさーい!」
「んぐ!?」
あ、あれ、俺は何をされてるんだ。
麗の超絶美少女顔がドアップになって、唇に柔らかな感触が……
「…………」
「や、やっと黙ったね」
「…………」
「馬鹿にしないでよね。私だって夏彦のこと……だ、大好きなんだから」
「…………」
「私の心も体も夏彦のものなんだよ。だからそんな悲しい勘違いはしないで欲しい」
「…………で、でも」
「でもじゃない。私にとっては夏彦が世界一の男なんだから、もっと自信もって」
「…………自信」
果たして俺がそんな自信を持てるだろうか。
絶世の美少女に相応しい男だなんて思えるだろうか。
「どうしても自信が持てないなら、私がも、持たせて、あげる……」
「え?」
「こ、こっちに来て……」
麗が俺の腕をとって、強引に立ち上がらせた。
一体ナニをするつもりだろうか。
「ごめん皆、私達午前中は休むから先生にそう言っておいて」
その後ナニがあったのかはここでは伏せ、麗に愛されているということをこれでもかと体に教え込まれたということだけ記すことにする。
ちなみに麗が腕を組んでいた相手は、男どころか男装コスプレをしていた母親だった。だから恥ずかしくて親戚だって誤魔化したようだ。
後にリアルで見せて貰ったが、あまりの完成度に驚愕した。
いや、本当に驚愕したのは、それが夫婦間での秘め事の時に使用する衣装でもあったと、麗の母親がこっそり教えてくれたことだ。
麗のお父さん凄い趣味してるな。参考にさせてもらおう。
ガチ鬱展開書きたい方は同じ設定で書いて下さって構いませんよ。
(苦手なので読まないですが)




