祝醸(いわいかもし)、まさかの製品化!?「発酵バッグ、ただいま醸造中 part2」
あの日、鞄の底で崩壊した紅白饅頭。
あれから一週間。あの発酵液は、捨てるに捨てられなかった。
「ここまで来たら、もはや実験だろう」と、
僕は台所でそっと耐熱容器に移し、冷蔵庫の奥へ保管した。
妻にバレたら怒られる? いや、もう怒られた。
バッグの件で2日口をきいてもらえなかったのだ。
だから今さら怖いものはない。
そんなある日。仕事で新規事業のアイデアを出せと無茶ぶりされた。
「なにか地域資源を活かした…伝統と現代の融合で…」
上司の言葉が上滑りする。
ふと、思い出した。
“発酵した饅頭液”。
あの甘く、麹のような香りと、わずかな炭酸の刺激。
……もしかして、
あれ、イケるんじゃない?
すぐに知り合いの地元ブルワリーに持ち込んだ。
恐る恐る差し出すと、社長は鼻をひくつかせたあと、こう言った。
「……これは、未知数だが……面白い」
1か月後。試作品第1号が誕生した。
――「祝醸 ホワイト発泡酒」
原材料:米粉、紅白饅頭由来発酵液、酵母、ロマン
味は、ほんのり甘酒風。微炭酸でさっぱり。
食前酒にも、祝いの席にも合う。
地元のクラフト酒イベントに出したら、まさかの大行列。
「なんか…昔の正月の香りがする!」
「飲むと家族円満になりそう!」
SNSでは“#饅頭から生まれた奇跡”がトレンド入り。
なぜか「縁起がいい酒」として、婚活イベントでも人気が出た。
そして今。
僕は、週末限定の「祝醸開発室」室長を兼務している。
出張でまた例のブラックレーベルのバッグを使っているが……
中には、冷凍パックに入れた試作品が3本入っている。
もちろん、紅白饅頭も1つだけ――「新しい酵母の種」として、そっと忍ばせて。
妻は、
「……もう、アンタの鞄には何が入ってても驚かんよ」
と呆れ顔だが、
毎晩の食卓には、ちょっぴり“祝醸”が出る。
彼女がふとつぶやいた。
「……昇進祝いのバッグが、まさか酒蔵の起点になるとはね」
笑ったら、
なんだか、またいいアイデアが湧いてきた気がした。
発酵は、裏切らない。
(※ただし食べ物をバッグに放置するのは非推奨!)