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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
9/63

祝醸(いわいかもし)、まさかの製品化!?「発酵バッグ、ただいま醸造中 part2」



あの日、鞄の底で崩壊した紅白饅頭。

あれから一週間。あの発酵液は、捨てるに捨てられなかった。


「ここまで来たら、もはや実験だろう」と、

僕は台所でそっと耐熱容器に移し、冷蔵庫の奥へ保管した。

妻にバレたら怒られる? いや、もう怒られた。

バッグの件で2日口をきいてもらえなかったのだ。

だから今さら怖いものはない。


そんなある日。仕事で新規事業のアイデアを出せと無茶ぶりされた。


「なにか地域資源を活かした…伝統と現代の融合で…」

上司の言葉が上滑りする。


ふと、思い出した。


“発酵した饅頭液”。


あの甘く、麹のような香りと、わずかな炭酸の刺激。


……もしかして、

あれ、イケるんじゃない?




すぐに知り合いの地元ブルワリーに持ち込んだ。

恐る恐る差し出すと、社長は鼻をひくつかせたあと、こう言った。


「……これは、未知数だが……面白い」


1か月後。試作品第1号が誕生した。


――「祝醸いわいかもし ホワイト発泡酒」

原材料:米粉、紅白饅頭由来発酵液、酵母、ロマン


味は、ほんのり甘酒風。微炭酸でさっぱり。

食前酒にも、祝いの席にも合う。


地元のクラフト酒イベントに出したら、まさかの大行列。

「なんか…昔の正月の香りがする!」

「飲むと家族円満になりそう!」


SNSでは“#饅頭から生まれた奇跡”がトレンド入り。

なぜか「縁起がいい酒」として、婚活イベントでも人気が出た。




そして今。

僕は、週末限定の「祝醸開発室」室長を兼務している。

出張でまた例のブラックレーベルのバッグを使っているが……

中には、冷凍パックに入れた試作品が3本入っている。


もちろん、紅白饅頭も1つだけ――「新しい酵母の種」として、そっと忍ばせて。


妻は、

「……もう、アンタの鞄には何が入ってても驚かんよ」

と呆れ顔だが、

毎晩の食卓には、ちょっぴり“祝醸”が出る。


彼女がふとつぶやいた。


「……昇進祝いのバッグが、まさか酒蔵の起点になるとはね」


笑ったら、

なんだか、またいいアイデアが湧いてきた気がした。


発酵は、裏切らない。

(※ただし食べ物をバッグに放置するのは非推奨!)

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