熊騒動2 ―かりんとう事件―
11月20日(木曜日)7時40分頃 富山市八尾町城生地内発見物及び発見者
発見物:クマ本体
発見者:地域住民
富山市八尾町城生地内において、地域住民から「クマと思われる鳴き声が聞こえた」と農地林務課へ連絡があった。市職員および猟友会(実施隊員)による現地調査を実施した結果、クマが柿の木に登った爪痕と柿を食べた跡を確認した。
この秋は、テレビをつけてもラジオをつけても、熊・熊・熊。
朝の最初のニュースといえば、どこそこのAIカメラに熊がうつったとか、老人がおそわれてけがをしたとか。
政治の話よりも、山から下りた“アーバンベア”が話題の中心だ。
怖がりの妻は、防災アプリの通知音がけたたましく鳴るたびに小さく悲鳴をあげる。
「また出たって!今度は根上町の河川敷よ!
うちも松川沿いだし、来るわよ、絶対! 怖いわー」
「……いや、根上町だろっ? さすがに距離あるしなあ。ここまで来るとは思えないのだけど。」
しかし、念のため、最近はスーパーまでの500メートルも車で移動するように妻にはいっている。
50m先のゴミ出しにも完全防備で挑む妻。
長袖、長ズボン。ゴム手袋に、エプロンのポケットには小型の雑草取り用の鎌が標準装備となっている。お買い物も少し恥ずかしいが、ほぼこれに近い出で立ちでのお出かけなのだ。
そして今朝も、庭木への水やり中に、何かを発見したらしい。
大慌てで、知らせに来る。
「あなた!熊のふんよ!最近はアプリでも熊の痕跡情報が多いのよ。
黒くてあんなに大きい糞、今度こそ、絶対に熊に違いないわ!」
私は、大好きな朝カレーを食べる手を止め、スプーンを持ったまま固まる。
「……いや、さすがにうちの庭のは、お隣のくろちゃんのじゃないのか?
川からだいぶ距離もあるし、街燈もあるし、人通りや車も多いじゃないか。さすがに来ないんじゃないか?」
だが妻の目は本気だ。
“熊警戒モードLv.5”である。
彼女の指さす先には、黒っぽい塊がいくつも。確かに猫の糞にしては黒いし、おまけに太い。いくつもある。糞であるとすれば、だいぶ長時間の滞在が疑われる。夜間だろうか?
近づいてみる。
確かに黒い。……けっこうリアルに獣の糞っぽい。
慎重に枝でつつくと――カリッ。うんっ?硬いぞ?それになんだかとても軽い!
「……これ黒糖かりんとうじゃないのか?さすがになめて確かめる勇気はないけど......」
「えっ?」
「ほら、まわりに黒砂糖っぽい粉がついてる。かわいててまだ新しい感じがするなあ。
隣のくろちゃんの落とし物じゃなくって、宝物なんじゃないかな?
猫がかりんとう食うかどうか知らんけど...........また黒ちゃん犯人扱いするとこだったなあ(笑)
ほら、よく動物って自分のお気に入りのものをいろんなところに隠すっていうじゃないか」
妻は真っ赤になった。
「うそでしょ……!だって、発見された熊の糞が黒いって聞いたのよ!」
「つまり、“熊が食べたあと”じゃなく、“熊が食べる前”のやつってことだな。猫が食べる前なのかもしらんけどな。(笑)」
妻は頬をふくらませて、
「もうっ、笑いごとじゃないわよ!」
と言いつつ、一緒に笑っている。
その夜、防災アプリがまた鳴った。
《熊の目撃情報:上市町周辺》
今度の情報は、ここから距離があるようだ。
妻はスマホを手に、静かに言った。
「……次みつけたら、くろちゃんのかりんとう片付けとくわ。」
「とりあえず、地域の心ある一住民として「クマの糞らしきものを発見した」と農地林務課へ通報するのは義務なのかもしれんけど、市職員による現地調査でかりんとうと発覚したら赤面もんだったよ。
(それにしても、これ、いつまでつづくんだろうか...........)
「早く、冬眠して欲しいもんだなあ。」
日時及び場所11月21日(金曜日)時間不明 富山市稲代地内発見物及び発見者
発見物:糞
発見者:地域住民
富山市稲代地内において、地域住民から「クマの糞らしきものを発見した」と農地林務課へ連絡があった。市職員による現地調査を実施した結果、クマの糞と柿の木に爪痕を確認した。




