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AIグラス カルテ混線事件
南方総合病院病院の外来に、新しいAIグラスが導入された。
患者の顔(生体情報で)を見ただけで既往歴、検査値、アレルギー情報まで瞬時に表示。医師は「これで診療効率も安全性も倍増だ」と胸を張った。
呼吸器内科の柊俊一郎医師が、初めての患者を診る。
グラスが起動し、テロップが流れる。
「60歳男性。主訴:息切れ。既往歴:高血圧、糖尿病」
問題ない…と思った瞬間、テロップが突然切り替わった。
「趣味:社交ダンス。特技:マジック。昨夜はカラオケで95点」
俊一郎は思わず二度見。
さらに、横の診察室からナースが小声で「先生、それ…整形外科の患者さんのデータです!」
どうやら、グラスが廊下を歩く別の患者を“視界の端”で認識してしまい、カルテ情報が混線したらしい。
患者本人はニコニコしながら、
「先生、ダンスはやらないけど…カラオケは好きです」
診察室は笑いに包まれたが、俊一郎はそっとAI電源を落とした。
「やっぱり、診察は目と耳でやるのが一番だな」




