夢の階乗Epilogue「未来は今の中にある」
■目覚め
俊一郎は、CPAPの吐息で目を覚ました。
夜明け前の首相公邸。
夢の記憶は霞のように薄れつつも、ルナの笑顔だけは鮮やかに思い出される。
官邸の窓から見える東京の街は、穏やかで静かだ。
国会前の抗議も、SNSでの憎悪も、不思議なほど沈静化している。
歴史の流れは……「いい方向」に収まっているようだった。
■教訓
その日、国会での締めくくり演説。
俊一郎は、最後にゆっくりとマイクを握った。
「過去を知りや未来を見通すことは、力だ。
だが、力は必ずしも正しさを保証しない。
私たちが持つべきなのは、予言ではなく、選択だ。
一人ひとりが、今この瞬間を選び続けること——それが未来をつくる唯一の方法だ。」
議場は一瞬の沈黙のあと、拍手に包まれた。
与野党を超えて、だ。
■日常へ
演説後、官邸の庭を散歩していると、庭師の老人が声をかけてきた。
「総理、昨夜、不思議な女性を見ましたよ。赤いドレスで、銀色の傘をさして……」
俊一郎は笑って首を振った。
「そんな人、この国会にいるはずがないじゃないか」
だが、胸ポケットには、あの古い万年筆。
キャップには小さく刻まれた文字——
"Until next time."
■夜の夢
その夜、久しぶりに何も考えず眠りにつく。
夢の中、海辺のカフェで、赤いドレスのルナが手を振っていた。
向かいの席には、御影の姿もある。
二人は微笑みながら同時に言った。
「次のステージは——君の選択だ。」
■ハッピーエンド
目を覚ますと、窓から差し込む朝日。
CPAPの静かな音が、まるで未来へのカウントダウンのように響いていた。
俊一郎は深呼吸をして、コーヒーを淹れに立った。
未来は、今の中にある。
そして——夢の階乗は、まだ終わってはいない。「完」
このたびは「夢の階乗」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
本作は当初、軽やかなショートショート集として始まり、前半では歴史ギャグやタイムパラドクスを思い切り遊ばせてもらいました。おかげで自分でも「これはなかなか」とニヤつく場面が多かったのですが……後半の未来編では、気づけば短編小説の領域に足を踏み入れ、ひねりよりも物語重視になってしまいました。これもまた“夢の階乗”の副作用ということで、お許しいただければ幸いです。
また、この物語はちょっと真面目に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)とCPAP治療の大切さを知っていただくための啓発活動でもあります。もし読後に「今夜はぐっすり眠ろうかな」と思っていただけたなら、作者冥利に尽きます。
ここまでお付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございました。
次回はまた、日常の隙間からふっと湧いた妄想を1話ごとのショートショートにしてお届けしたいと思います。
どうぞ、ベッドサイドの読書灯の明かりとともにお待ちください。
——夢の中でお会いしましょう。 しゅんたろうより ”愛”をこめて




