夢の階乗20「最終決戦」
■夢世界、歴史編集室
CPAPマスクを外し、俊一郎は意図的に浅い眠りに落ちた。
白い無限廊下、その奥に“歴史編集室”が広がる。
壁一面の時系列パネルが明滅し、書き換えの痕跡が脈打っている。
中央には御影、その背後には赤いドレスのルナ。
二人はまるで双子のように似ていた。
「やはり……妹だったか」
俊一郎の声に、御影が薄笑いを浮かべる。
「妹? いや、未来では共犯者だ」
■時系列トリガー争奪戦
机の上に置かれた歴史のトリガー——形は古びた万年筆。
これで歴史を確定させられる。
俊一郎が一歩踏み出すと、御影の背後から未来兵装のドローンが数機、浮上した。
俊一郎:「こいつはちょっと反則じゃないか?」
御影:「歴史に、そして夢にルールなどない」
ルナが耳元で囁く。
「右に飛び込んで、机の下へ——今!」
二人同時に転がり込み、ルナは心電図ペン型の暗号送信機を御影のドローンに突き刺す。
ドローンが一斉に停止し、床に落ちた。
■裏切りの瞬間
トリガーを手にしたルナが俊一郎を見る。
「これで終わりよ。兄の計画は——」
その刹那、ルナの表情が変わる。
「でも、あなたの時代に完全に戻す必要がある?」
俊一郎:「何を言ってる……?!?」
ルナ:「私たちの未来も守らなくちゃいけない」
俊一郎は理解する。
——これは単なる兄妹の確執ではない。
未来を生き延びるため、歴史を“選別”しようとしている。
■選択の時
御影が割って入る。
「俊一郎、お前も知っているはずだ。この時代を残せば、お前の未来は滅びる」
ルナ:「でも兄の未来は独裁よ!」
二人の声が交錯する中、時系列パネルが崩れ落ち、現実と未来の断片が吹き荒れる。
東京の国会議事堂が水没し、火星都市の空が割れ、昭和の繁華街が現れては消える。
——時間が崩壊する。
ルナの手から零れ落ちた万年筆を素早く拾い上げると、
俊一郎は深呼吸し、万年筆を天に掲げた。
「未来も過去も、”俺が”一度リセットする」
閃光が走り、すべてが白に包まれた。
■現実への帰還
気がつくと、首相官邸の執務室。
机の上には、ただの古い万年筆。
ニュース速報には——
「株価、為替、国際情勢……不可解な安定」
記者会見で俊一郎は言った。
「未来は予言で作るものじゃない。今を選び続けることでしか、たどり着けない」
ルナの姿はなかった。
だが窓の外、銀色の傘を差した赤いドレスの女性が、こちらに手を振って消えた。




