夢の階乗15「二人で夢の門をくぐる」
柊俊一郎は、ホテルのスイートルームのバルコニーで夜風を吸い込み、マティーニを傾けた。
ソフィアはベッド脇で、スリムなケースから心電図ペンを取り出し、試し書きをしている。ペン先からは肉眼では見えない量子暗号の波が、WHOの衛星へと送信されていた。
「次の夢……行くなら私も連れてって」
吐息がpink色に染まる。
「そんな簡単なもんじゃ——」
その時、彼女が冗談半分か、本気か?それとも演技なのか、柊の手を取った。
指先が触れた瞬間——視界が暗転し、足元から重力が抜ける。
気づけば、二人は朽ちた石造りの廊下に立っていた。
「ここが……あなたの“夢の世界”?」
「いや、俺にとっても初めての場所だ」
壁には見覚えのある紋章——御影が活動拠点としている未来都市〈アークリバース〉のシンボル。
背後から声が響く。
「おやおや……二人で来るとは思わなかったよ、柊総理」
黒いコート、無表情の男。御影だ。
「この世界は私の庭だ。君が未来や過去を弄ぶのを、いつまでも見逃すと思ったか?」
「庭って割に、手入れが行き届いてないな。雑草だらけだ」
柊はゆっくりとジャケットの内ポケットに手を入れ、心電図ペンを構える。
ペン先を床に走らせると、波形データに偽装した暗号がソフィアの腕時計へ転送される。
御影の手が動く——次の瞬間、閃光。
ソフィアがAED型スタンガンを抜き、御影のガード役の男に電撃を浴びせた。
ソフィア「AED二度打ちは心臓に悪いわよ」
俊一郎「いや、一度目から悪い」
廊下の奥、巨大な扉が開く。
中には計器とホログラムに囲まれた制御室——“歴史の編集室”だ。
御影は笑みを浮かべたまま、操作卓に手をかける。
「さあ、どちらが未来を握るか、決めようじゃないか」
「その勝負、ステアじゃなく……シェイクで頼むぜ」
柊とソフィアは視線を交わし、同時に踏み込んだ。
夢世界での戦いが、ついに始まる——。




