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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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夢の階乗12「歴史の剪定」


 夜、CPAPを外し、ベッドに身を沈める。

 深く潜れば未来、浅く戻せば過去──すでに呼吸を整えるだけで、自在に行き来できるようになっていた。


 ■過去への剪定

 最初に降り立ったのは、明治初期。

 新政府が西洋文明を導入する真っただ中、柊は大隈重信の書斎に立ち、低い声で囁いた。

 「海軍より鉄道と通信を先に整備すべきです」

 その一言が、後の財政投資配分を変え、日本はアジア最速で通信網を全国に敷設した。


 次は戦後復興期。

 官僚の耳元で、こっそり「医療インフラは農地改革より先に整備を」と吹き込む。

 地方の病院建設は20年早まり、地方人口流出は抑制された。


■未来への剪定

 未来では、AIが行政をほぼ独占する2050年代に飛んだ。

 AI閣僚の議事録を盗み見し、環境政策の重大な岐路を知る。

 「この法案は2029年に提出しろ」と、現代の環境大臣に耳打ちしておく。

 結果、未来での温暖化指標は大きく改善されることが分かった。


■副作用

 やがて気づく。

 過去を“剪定”するたびに、未来が微妙に変形していく。

 2050年代の新聞には、見慣れぬ名前の総理が載っており、自分の存在は影も形もなかった。

 「俺は……剪定しすぎたのか?」


 ふと、母の声が聞こえる。

 

──歴史は庭じゃないよ、俊一郎。

 

目を開けると、執務室のデスク。

 引き出しの奥には、封印したはずのUSBメモリがまた置いてあった。

 まるで誰かが「続き」を促しているように。


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