夢の階乗10「予言総理」
参議院予算委員会。
野党第一党の川端議員がマイクを握る。
「総理、来年度の防衛装備品調達費が急増していますが、根拠は何ですか?
このままでは国民負担が──」
柊総理は、にやりと笑った。
「川端先生、それ、来年の5月23日に答えが出ます」
委員室がざわめく。
川端議員は眉をひそめた。
「……どういう意味ですか?」
「その日に、某国の無人偵察機が日本海上空に侵入します。スクランブル発進に加え、新型レーダーの必要性が国民的議論になります」
与党席が「おお…」とざわめき、野党席は失笑。
「総理、それは占いか何かですか?」
「まあ、外れたら私が辞めますよ」
──数か月後、本当に事件は起きた。
ニュースは「総理、予言的中」と大騒ぎ。支持率は急上昇。
別の日。
「総理、エネルギー価格高騰への対策は?」
「その心配は、来年2月の中東和平合意でなくなります」
「合意?そんな話、どこから……」
そして予言通り、和平が成立。原油価格は下落。
「総理の洞察力すごい」とメディアは持ち上げるが、官僚たちは震えていた。
さらに農林水産委員会。
「総理、小麦の自給率改善の見込みは?」
「来年7月、カナダで大豊作です。輸入価格が下がるので、国内農家は二毛作にシフトします」
「……天候まで予測できるんですか?」
「ええ、夜に寝て見る夢で」
委員長席から「総理、発言は慎重に!」と注意されるも、与野党の何人かはメモを取り始めていた。
ただ一つ、誰にも言えないことがあった。
これらの“予言”はすべて、夢の階乗で未来に行き、見てきた事実そのものだということ。
そして──
その晩、いつものようにCPAPを外して眠りにつく俊一郎の耳元で、低い声が囁いた。
「総理、次は“あなたの退陣の日”を見に行きましょうか」
柊総理は寝返りを打ち、苦笑した。
「それは……まだ見たくないな」




