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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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夢の階乗9「総理のインサイダー」


 未来へのタイムトリップがすっかり習慣になった柊俊一郎総理。

 今夜もCPAPを外し、鼻呼吸のまま眠りにつく。夢の中で未来の自分の執務室へ──。


「さて、今日の“お土産”は?」

「株だ。来週、A社の新薬が承認されて株価が5倍になる」

「ほうほう。他には?」

「為替は来月1ドル=115円から一気に125円へ。ついでに、トウモロコシの先物も押さえておけ」


 目覚めた俊一郎は、総理の公務そっちのけで内閣情報調査室の端末にログインし、匿名口座を複数開設。身元はカモフラージュ済みだ。

 日中は国会で医療改革案を熱弁し、夜は夢の中で未来のチャートを回収。

 翌日には淡々と売買を繰り返す。議場の裏でスマホを片手に「よし、利確!」と小さくガッツポーズ。秘書官が「総理、質問にお答えください!」と耳打ちするのもお構いなし。


 ──数週間後。

 秘密口座の残高はゼロがひとつ増えていた。

 豪華客船を買える額だ。だがそれを表に出せば、一発で政治生命は終わる。


「やれやれ……ま、老後資金ってことで」


 その晩も未来へ飛ぶ。

 しかし、未来の自分はやや険しい表情だった。


「お前、やりすぎだ。このままじゃ為替市場が崩壊する。俺の時代、通貨危機まっただ中だぞ」

「でも俺の口座は潤ってるし……」

「そういう問題じゃない!」


 次の瞬間、夢の景色が崩れ、真っ暗な闇の中に吸い込まれた。

 ──気づけば、自宅ベッド。CPAPのマスクがしっかり装着され、ランプが「使用時間8時間」の数字を示していた。


「……おかしいな、昨日の夜は外して寝たはずなのに」


 枕元には一枚の紙切れ。

 “これ以上市場をいじるな。次は夢に入れないようにするぞ”──未来の自分の署名入り。


 柊総理は、マスク越しに小さくため息をついた。

 だがその翌晩、彼はまたマスクを外して眠るのだった──。

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