夢の階乗8「未来からの逆流」
いよいよ夢の階乗の能力で未来へのタイムトラベルが可能に。
未来へのタイムトラベルは“見るだけ”ならいわゆるタイムパラドクスはおきませんが、知った情報で現在を変えると過去改変と同じような結果になるのです。そんな俊一郎の冒険をしばらく描いてみたいと思います。1話完結のショートショートでなくてすみません。全体で20話程度を予定しています。よろしくお願いします。
総理大臣・柊俊一郎は、ここしばらく夢を意図的に封印していた。CPAPをしっかり装着し、夜間低酸素もゼロ。おかげで、あの“階乗的”夢の旅はぱったりと止まっていた。
──だが、ある晩、うっかり寝落ちしてしまった。
鼻マスクを外したまま。
目を開けると、そこは見知らぬ部屋。広い執務室、壁には世界地図。机の上には「2045年 日本国総理大臣」の名札──そこに座っているのは、自分によく似た誰か。いや、未来の“自分”だ。
「……これ、過去じゃなくて未来?」
「そうだ。お前は今、2045年の柊だ。あのあと何度も選挙に勝って、長期政権になってる」
「おお、それはめでたい」
未来の自分は、米国大統領や中国主席との首脳会談の日程、国際条約の草案、株価や為替の乱高下の予測表、農作物の不作年、さらには近々起きる紛争まで、すらすらと教えてくれた。
──総理、株や為替でもひそかに儲けられる、と未来の自分がウィンクする。
その夜から、柊は夢の中で眠るたび、さらに未来へ飛べるようになった。2050年、2060年……
未来の出来事をつまみ食いのように持ち帰り、現代の政局を巧みに操る。
米中首脳会談では「先に言っておくが、その条文は3日後に向こうが破るぞ」と切り出し、相手を青ざめさせる。株価暴落を事前に回避し、支持率は爆上がり。
国会答弁では、野党の質問を「それ、来年の5月に答え出ます」と先回り。与野党がざわつく中、予言通りに事が進む。
……だが、ある日を境に、未来は微妙にずれ始めた。
米大統領の名前が変わっていたり、為替が予想と逆に動いたり。
しまいには、未来の“自分”からこう告げられる。
「お前、過去で稼ぎすぎたな。未来が変わって、俺の地位も危ういんだよ」
その瞬間、夢の世界がぐらりと揺れ、景色が暗転する。
──気づけば、自宅のベッド。鼻にはしっかりCPAPのマスク。
機械のランプが青く点滅し、「自動開始モード」の文字が光っていた。
「……やっぱり未来は、寝て待つくらいがちょうどいいな」
そうつぶやき、柊総理は静かにマスクを外した。
だが、その手元には、見覚えのない株式銘柄リストが残されていた──。




