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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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夢の“階乗”6「WHOでのCPAP外交」

この物語はフィクションです。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)への理解と、呼吸器医療の未来をユーモアとともに描いたSF小説です。



「……柊総理、ジュネーブ到着まであと30分です」


SPの乾いた声に目を覚ます。専用機の気圧なのか、空調による乾燥のせいか、口がカラカラだった。


――CPAPを外して寝たのだ。また、あの“能力”が発動する。


「総理、ご気分でも……?」


「いや……ちょっと夢を見てただけだ」


その夢は、“2019年秋・武漢”から始まった。

彼は、ある若い眼科医――リー某の身体を通じ、異常な肺炎患者の出現を“早期警告”する。

SNSで発信、保健所に報告。だが……


「デマを流すな。お前を拘束する」


公安に囲まれた瞬間、空が白くフラッシュした。


――次の瞬間、どこかの回廊のような場所に浮いていた。


目の前に、見たことのない存在が立っていた。


純白のローブ。顔は見えない。


「それ以上、歴史の改変は認められません」


「誰だ?」


「私は“時間の守り人”。歴史の干渉は限度を超えました」


「でも、500万人だぞ? それが救えるんだ!」


「代償が大きすぎます。あなたが知っている世界は消えます」


そう言い残して、その存在は彼を押し戻した。


気がつけば、ホテルのベッドの上だった。


朝のニュースは、WHO年次総会の開幕を伝えていた。


「それでは、次は日本国代表、柊俊一郎首相のご発言です」


壇上に立つと、各国代表の目がこちらを向いた。

中国、米国、EU、アフリカ諸国、ロシア――その顔ぶれは複雑だ。


「私は、ひとつの提案を持ってきました」


一瞬の静寂。


「COVID-19が我々に突きつけたのは、“呼吸”の問題です。肺という臓器は、世界中の誰もが持つ“共有の器官”です。」


――だからこそ、呼吸を守る技術と情報は、政治の外で連携すべきなのです」


数人がざわつく。彼は続けた。


「私は一つの装置に未来を見ています。これは“CPAP”と呼ばれる、鼻に装着して気道を開く医療機器です。


…ええ、いびき対策だけではありません。低酸素に抗い、眠りを深め、人間の判断力と希望を取り戻す装置です」


各国代表が目を見開いた。


「このCPAPを、私は“平和の象徴”として、WHOマークの隣に掲げたい」


その年、WHOは各国共同で「呼吸の未来」イニシアチブを設立。

世界各国の睡眠医療が見直され、パンデミックの“次”への備えが進んだ。


(ナンセンス、 でも"夢”  だからな)


夜。


ホテルの一室。柊首相は、ひとりベッドに腰掛けていた。


机の上には、WHO謹製 ピカピカのCPAPが鎮座していた。


彼はマスクを手に取り、苦笑いした。


「ま、夢を見すぎても、ろくなことにならないからな」


そうつぶやいて、静かに装着した。




2020年初頭、武漢の一医師、李文亮(Li Wenliang)先生が声を上げた。

まだ誰もが半信半疑だったあの時、彼は危険を承知で真実を伝えた。

その声は、やがて世界中の医療者を動かし、数え切れぬ命を救った。


私たちは誓う。

病に向き合う時、恐れよりも勇気を、沈黙よりも真実を選ぶことを。

彼の志を、白衣の内に宿し続けることを。


――その声は、今も私たちの胸に生きている。


先生のご冥福をお祈り申し上げます。

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