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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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夢の“階乗”4 ―SPモード2― 柊俊一郎、総理になる

※この物語はフィクションです。

現実の事件に敬意と哀悼を捧げつつ、睡眠時無呼吸症候群(SAS)への理解と、呼吸器医療の未来をユーモアとともに描いたショートショートです。




「……先生、朝のミーティング、予定どおり10時から、虎ノ門クリニックでの診察枠は12時まで。その後は首相官邸にお戻りです」


耳元で低い声。黒スーツのSPが、そっとスケジュールを確認する。


私はソファに腰をかけたまま、ぼんやりと目をこすった。目の前のモニターには、私の名がこう映っていた。


《内閣総理大臣 柊俊一郎》


……夢の中で安倍元首相のSPになって銃撃を阻止した――

そこまでは覚えている。だが、どうやら今回は“目覚めたあと”も続いているらしい。


「先生、血圧の薬とCPAPの記録、届いてます。夜間SpO₂も安定してました。総理の健康は、国の安全保障でもありますので」


白衣の医師が笑顔で話す。東大病院・呼吸器内科の主任教授だという。だが、彼の言葉に微塵の違和感もない。


……いや、おかしいのは私のほうか?


【夢の中】


私は演説会場のSPだった。

2022年7月8日――奈良。


犯人の動きに気づいた私は、安倍元首相を全身でかばい、銃撃を未然に防いだ。


「よくやった!」


「君の名は?」


「柊……俊一郎です」


夢の中の歓声は、なぜか現実に続いていた。


そして今、私は内閣総理大臣。

前職は虎ノ門の呼吸器内科クリニック院長。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の専門家として、国民の健康政策の象徴に据えられた。


選挙公約は「みんなにCPAP」。

官邸では「呼吸する政治を」「鼻マスクで日本を救う」が流行語になっている。


「先生……総理。失礼しました」


東大病院の主任教授が言った。


「ご本人の夢の中に“階乗的転移”の意識が残っているケースは珍しいですが、政治家としての適応は素晴らしいです」


「……君、私が歴史改変に巻き込まれてるって、気づいてるのか?」


「ええ。でもご安心を。今の日本、夢の階乗で正された方が“マシ”なのです」


帰りの黒塗り車の中。

窓の外を見ながら、私は小さくため息をついた。


「……まあいいか。

この現実が夢だとしても、呼吸と政治、どちらも止めるわけにはいかないからな」


後部座席のCPAPマシンが“ぷしゅー”と音を立てていた。




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