夢の“階乗”3 ―SPモード―
「柊先生、ひょっとして、また夢の階乗が?」
「ええ……今回のはかなりリアルでした。なんと、安倍元総理の警護に就いていたんですよ。SPの一人として」
診察室の若手医師が、苦笑いを浮かべる。
「安倍さんってこの間引退されましよね? そんな事件私の記憶にはないのですが???」
「前回が源義経で、今回は……元首相のSPと?」
(現首相の言葉を信じないわけではないけど.....)
「そう。事件当日の奈良の演説会場。夢の中の私は明らかに“その日”のことを知っていた。だから、意識が“そこ”に飛んだんです。」
「“知っている事件”にしか階乗できないんでしたね」
「そう。目覚めたときに印象が強く残っているのは、銃声じゃない。“間に合った”という感覚です。まあ、過去が変わっちゃったんで、襲撃事件もなかったことになってるみたいですけどね。」
夢の中で、私は黒いスーツに黒いサングラス、そしてイヤーピース。
安倍晋三元首相が演説するすぐ横で、警備にあたっていた。
「発砲音、後方より!」
直感で飛び出した。
銃撃犯が銃を構えた直前に、私は安倍氏を押し倒した。
数秒後、別のSPが男を取り押さえる。
「ご無事ですか、総理!」
安倍氏は驚いた表情で私を見上げた。
「……ありがとう。君の名前は?」
「柊、柊俊一郎です」
「……で、目覚めたらどうなってたと思います?」
私はにやりと笑った。
若い医師が「まさか……」と顔をこわばらせる。
「はい。内閣官房から通知が来ていました。“臨時代理・総理大臣任命のお知らせ”と」
「えええ! そうだったんですかぁ?!」
「“あのとき助けた英雄”として祭り上げられ、なぜか世論が“柊総理待望論”一色になっていて……」
豪邸の寝室、壁に飾られたポスター。
《医療立国・日本へ! 柊しゅんいちろう》
執事が言う。
「本日10時から、旧統一教会との関係見直しに関する記者会見でございます」
「ま、まずい……夢の中で未来変えすぎたかも」
ふと見ると、目の前の机にCPAPマスクが。
それは、現実との唯一の接点のように、静かに“ぷしゅー……”と呼吸していた。
この物語はフィクションです。
現実の事件の犠牲者への哀悼の意を捧げるとともに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)への理解を深めるきっかけとして執筆しています。




