夢の“階乗”Part2 ―多重夢と歴史改変―
「……先生、最近の夢、本当にヤバいんです」
私は、睡眠クリニックの問診票を記入しながら言った。
「どう“ヤバい”のか、具体的にお願いします」
若い医師がペンを持ち直す。
「最初は、織田信長だったんですよ。桶狭間の戦いの時の。今川義元が馬に乗って来ないことに驚きました」
「ほう」
「そこで眠ると、また夢を見て……次は、源義経。屋島の戦いで扇の的を射落とす場面、私がやってました。射った瞬間に“あ、肩が五十肩で痛い”って目が覚めそうになりましたが、頑張りました。夢だったんでなんとかなったんだと思います。」
「……五十肩で歴史が変わりそうですね」
「さらにその中でまた寝ると、今度は卑弥呼になっていたんですよ」
「えっ」
「しかも、魏に送る使節団の選抜で“どうせならイケメンを”とか言ってました。あれ絶対記録に残るやつです」
「つまり、夢の中で寝ると、どんどん時代をさかのぼって歴史上の人物になっていくと?」
「ええ。“夢の階乗”状態ですね。しかも、そのときの行動が現実の歴史に影響を与えてるようなんです。中学の歴史教科書を見たら、こんな記述がありました」
彼はスマホの画面を見せた。
『源義経は屋島の戦いで“肩をおさえながら”見事に扇の的を射抜いたと伝えられている』
医師は絶句した。
「……それ、あなたの五十肩が教科書に影響してるんじゃ?」
「間違いなく。あと、弥生時代の外交文書に“イケメン重視”って書かれてました」
そしてある夜。
私は“坂本龍馬”の夢を見た。薩長同盟の締結直前だった。
「そろそろ西郷どんと桂さんが来る時間ぜよ」
思わず“ぜよ”と言ってしまいながら、私はある閃きを得た。
「ここでWi-Fiがあれば、議事録もZoom会議も楽なんだけどなあ……」
そう呟いた瞬間、龍馬の懐からスマホが出てきて、薩摩と長州がZoomでつながった。
なんでもありだよな.......夢だから。 不思議となんとも思わなかったんだよね......夢だから。
「桂さん、そっちの映像が止まってますよー」
「西郷どん、マイクミュート!」
……それが、日本における最初の「リモート会議」となった。
翌朝。
目を覚ました私は、豪奢なベッドの上にいた。
「お目覚めですね、“初代・夢史学”名誉教授、柊俊一郎先生」
執事らしき老人が言った。
壁には立派な額縁が。
《国立・夢史アカデミー設立記念 初代理事長 柊俊一郎》
〜睡眠時無呼吸症候群から世界史を創った男〜
「なんだこりゃ……。まさか、いびきで世界史、書き直しちゃった……?」
そんな私の耳元で、枕元のCPAPが、今日も規則正しく「ぷしゅー」と鳴っていた。
※睡眠時無呼吸症候群(SAS)は放置すると命に関わるリスクがあります。
変な夢や、日中の眠気が気になる方は、早めに受診しましょう。




