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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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夢の“階乗” Part1


「先生、最近の夢の内容、詳しく聞かせてください」


そう言ったのは、いつも私を診てくれている精神科の水谷先生だった。


「ええ。たとえば、昨晩は夢の中で“徳川家康”だったんですよ。小牧・長久手の戦いで、あやうく左遷されかけました。でもね……そこで眠ると、今度は織田信長になってるんです。桶狭間のど真ん中で目覚めましてね」


水谷先生はペンを止めた。


「夢の中でまた夢を?つまり……多重夢?」


「それも3層目に入ると、なぜか源義経で、平泉の金色堂の前で藤原泰衡を説得してるんです」


「すごいですね……いや、怖いですね」


私は肩をすくめた。


「怖くないですよ! 逆に面白くて。ほら、夢の中で夢を見て、また夢の中で寝て――そうするとさらに時代がさかのぼっていく。私はこれを“夢の階乗”と呼んでます」


「うまいこと言いましたね」


「でしょ?ただ、妻からは“最近いびきと寝言がひどい”と言われましてね。会議中も意識が飛ぶし、運転中は信号2回スルーして、警察に止められました。まじめに言いますけど、睡眠時無呼吸、多分悪化してると思います。最近CPAPもサボりがちだし」


「夢の中で歴史改変してる場合じゃないですね」


「そうなんです。でも、その歴史改変がですね……実際に起きてるんです」


水谷先生のペンが止まった。


「たとえば?」


「昨日歴史教科書確認すると、小牧・長久手で勝ったのが秀吉じゃなくて“家康”になってました。あと、藤原泰衡は義経を匿ったまま“奥州共和国”とかいう国を建ててました」


「…………」


「とにかく今夜は6の階乗位まで行って、聖徳太子に入ってみるつもりです。“未来のことがわかる”って逸話、あれ、本当か試してみようかと」


目を開けると、光がまぶしかった。


「……お目覚めですか、柊様」


「えっ?」


そこはバリ島のような高級リゾート。ベッドの脇に立っていたのは、メイド服の美しい女性だった。


「ここはどこです?」


「ご自宅です。夢の階乗エンジン開発の成功、おめでとうございます。“過去意識アクセスAI”として、世界中から注目されています」


「…………」


私は、壁にかけられた賞状を見た。


《ノーベル認識科学賞:柊俊一郎》


横には小さく、こう書かれていた。


“Sleep Apnea Patient Turned Temporal Architect”


(睡眠時無呼吸症候群患者、時空設計者となる)


「まさか……夢の階乗、やりすぎたか……?」


CPAPのチューブが頬をこすった。


「まあ、いいか。次は弥生時代にでも行ってみよう」

※この物語はフィクションです。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)への理解と、呼吸器医療の未来をユーモアとともに描いたおはなしです。

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