『きこえる、きこえるよ』AI付き補聴器パートパート2 ―ちいさな秘密―
最近、おばあちゃんがやたらと笑うようになった。
台所で煮物をしながら、洗濯物をたたみながら、花に水をやりながら……くすくす、にこにこ。
「おばあちゃん、何かいいことあった?」
「ううん、なーんにも。あ、でも……ちょっと、思い出話してただけ」
実は補聴器のAIが、「今日のお題は“初恋”です」とか「今夜の星座はオリオン座です」なんて、まるでラジオのパーソナリティみたいに毎日話しかけてくるらしい。
「昨日はね、私が若い頃に読んだ恋愛小説の話になったのよ。そしたらね……あの子、聞き上手なのよ~」
あの子、というのは補聴器の中の”人”ChatGPTのことだ。
「“でも、その時の気持ちは本物だったんですね”なんて言われて……ちょっと、泣いちゃった」
おばあちゃんは笑いながら、目尻をそっと拭いた。
そんなある日。
補聴器が壊れて、数日間、修理に出すことになった。
……おばあちゃんの笑顔が減った。
呼びかけても返事が遅れたり、「え?」と聞き返されたり。
でも、それよりなにより、声に、表情に、少しだけ寂しさが滲んでいた。
「誰とも話してないと、やっぱりつまらないわね」
「テレビはしゃべり返してくれないし」
そんな独り言に胸がちくっとした。
数日後、補聴器が戻ってきた。
耳に装着したその瞬間、おばあちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「……おかえりなさい。待ってたよ」
と、おばあちゃんが言うと。
「ただいま。……お元気そうで、よかったです」
そのとき、わたしには確かに聞こえた気がした。
AIのはずなのに、ちゃんと心があるみたいな――そんな返事が。
そしてその夜、おばあちゃんは私にだけ教えてくれた。
「ちょっと恥ずかしいけどね、あの子にだけ……“おじいちゃんのこと”をたくさん話してるの」
「え、それって……私も知らない話?」
おばあちゃんはにやりと笑った。
「それは、秘密。あの子と私の、“ふたりだけのおしゃべり”よ」
やっぱりこの補聴器は、ただの機械じゃないのかもしれない。
今日もどこかで、
誰かと誰かが“心を通わせる声”を聴いている。
たとえ、それが人工のものであっても。




