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日常すれすれ  作者: しゅんたろう
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おかずの名前


「お父さん、あのね……そろそろ“あそこ”の話、しなきゃと思うの」


「“あそこ”? 何だ、またカレー屋でもできたのか?」


「違うの。施設よ。介護付きの。もうそろそろ、ふたりでそこに行くのも、考えてもいいかなって」


「……ふたりで?」


「そう。“ふたりで”。一緒にね」


「……でも昨日の晩、ふたりで何を食べたか思い出せん。

そんなのに、“ふたりで施設”なんて、ちゃんとできるんかのう」


「……昨日のおかず? ええと、さばの味噌煮だったかしら」


「ちがう。ほら、あれよ、ふわふわしてて、銀紙に包まれてて……」


「それ、ホイル焼き!」


「そうそう! それだよ。お前の得意料理じゃ」


「へえ、覚えてたのね」


「忘れんよ。あれが出ると、“ああ今日はごちそうの日だ”って思うからな。

施設行くなら、あれ、持ってってくれんか?」


「じゃあ、週に一度、私が作ってあげる」


「……そしたら、おれも週に一度、ちゃんと思い出すわ。お前の名前も、ホイル焼きも」


「ふふ、順番が逆よ」


「しょうがないじゃろ。お前の名前より、料理の味のほうが、からだに染みついとる」


その日から、二人の引っ越し準備はゆっくり始まった。


食器は減らした。洋服も減らした。


でも、ホイル焼き用のアルミホイルだけは、新品を2ロール買った。

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