夏の条件反射
俺の体には、ある「習性」がある。
それは、夏になると冷房のリモコンに手が勝手に伸びるというものだ。
いや、物理的に勝手に動くわけじゃない。
ただ、条件がそろうと、反射的に“ピッ”と押してしまう。
暑い。汗が出る。扇風機がぬるい。
そのとき俺はもう、リモコンを押している。
それを「無意識の習慣」と片付けるのは簡単だ。
だが先日、あることに気づいた。
気温が下がってきても、リモコンを押すと安心するのだ。
むしろ冷房が効いてないのに「ピッ」と音がすると、心が落ち着く。
……これってまさか、パブロフの犬状態じゃないのか?!
つまり、夏の不快な気温(刺激)に対して、冷気(報酬)を得ることで、
最終的には「リモコンの電子音だけで安心する」ようになったのだ。
そう、俺はもう「音」だけで ”涼”を感じるよう、条件づけされてしまったのだ。
これは便利かもしれない、と思った俺はさらに実験を進めた。
エアコンを外して、リモコンの音だけ鳴らして生活してみることにした。
すると数日後――
本当に、涼しい。
……気がした。
汗は出るし、Tシャツはべたつく。でも、心は落ち着いていた。
「これは……思い込みの力……?」
科学者の端くれとしての俺の探求心は止まらず、ついに論文にまとめて提出した。
タイトルはこうだ。
『電子音による聴覚的冷感誘導の研究』
査読者のコメントはこうだった。
「パブロフ博士が草葉の陰で泣いています」
翌日、俺は研究室で冷房をつけた。
「ピッ」
……どこからか、犬が走ってきた。




