『シュレディンガーの三毛猫』 Schrödinger's cat Part2
大学物理学科・量子力学ゼミ。
今日の発表担当は、留年を3回繰り返した伝説の問題児・佐久間だった。
「それでは発表します。タイトルは――
“シュレディンガーの猫が三毛猫だった場合の波動関数の崩壊について”」
教室がざわつく。
「先生、猫の生死とかより性別の話になってませんか?」
「黙れ、そこが核心だ」
佐久間はホワイトボードに猫のイラストを描いた。明らかに三毛猫。しかもオスっぽい顔つき。
「さて、三毛猫のオスの発生率はご存知のとおり、およそ3万匹に1匹。XXY型、つまりクラインフェルター型の突然変異です」
「それが……?」
「この箱の中にいる三毛猫が、オスかメスかわからない。つまり、“性別が重ね合わせ状態”にある」
「……え?」
「つまり、箱を開けるまでは、生きてる・死んでるだけでなく、オス・メスも未確定なんです!」
佐久間の声が熱を帯びる。
「ここで問題です!」
「箱の中に入っている猫が、
① 三毛猫であり
② 生死不明であり
③ 性別も未確定である場合――
どの瞬間に、波動関数は崩壊するのか?」
「そもそも性別って量子ビットで定義できるんですか?」と誰かが小声で突っ込んだ。
佐久間はボタンを押した。スクリーンに映ったのは……
「メスだったら生きている」
「オスだったら死んでいる」
という狂気の真理表。
「えっ、死因は!?」
「社会的抹殺です。三毛のオスは希少すぎてネットで炎上するんです。たぶん」
「それ、量子関係ないですよね!?」
「いや、これは“観測されること”そのものの恐ろしさを表現しているんだ!」
「観測社会だ!」
「それっぽいけど違う!」
教授がそっと口を挟んだ。
「……ちなみに、君の論文の査読結果なんだが」
「はい?」
教授は言った。
「“猫の性別を観測によって決定するのは、生物倫理的に不適切”とのご意見だった」
「倫理かよ!! 量子より先に道徳が波動崩壊してるじゃねーか!」
佐久間は崩れ落ちた。
その後、佐久間は哲学科に転籍し、卒論のテーマはこうなった。
『性とは観測か、本質か――三毛猫における自己認識と他者の目』
教授は、そっと推薦状を書いた。
「この学生、生きてるのか死んでるのかわかりませんが、とてもユニークです。」




