『シュレディンガーの国試』 Schrödinger's cat Part1
医師国家試験の初日、午前の部の第1問を見て、俺は固まった。
「問1:あなたが猫である可能性が50%、医師である可能性が50%の場合、
以下のうち最も適切なのはどれか」
「え?」
選択肢を震える手で読み進める。
A.陽電子放出断層撮影(PET)を行う
B.鳴く
C.箱を開ける
D.カルテを書く
E.生きているとも死んでいるともいえない
会場全体がざわ……と揺れたような気がした。
俺は、昨夜のことを思い出していた。
──徹夜明けのテンションで、俺は友人の透と「もし医師国家試験が量子力学だったら」というしょうもない話をしていた。
「観測されるまで合格か不合格かわからないってこと?じゃあ俺たちは“シュレディンガーの医学生”ってことか」
「てか、問題が確定してる時点で、もう“観測”されてるじゃん」
「それ、答え書いた瞬間、試験官の脳内で波動関数収束するやつやん」
笑いすぎて眠れなくなった。──そして今、この問題。
混乱しながらも、俺は選んだ。
D.カルテを書く
「たとえ”猫”でも、医者であるならカルテを書ける……!そう信じて……」
結果発表の日。
厚労省のホームページにはこうあった。
【国家試験・問1に関する訂正】
問1は「哲学的問い」であり、採点対象外となりました。
俺は頭を抱えた。
透からLINEが来た。
「Eを選んだ俺、量子力学には勝てんかったわ……」
「でもDで通るとは思わんかったわ、猫なのに」
俺は返した。
「猫だって、カルテくらい書くよ」
「じゃあ今夜、焼き魚とまたたびで祝おう」
結局のところ、「観測されるまでは、誰も落ちていない」──
それが、国家試験という名の“箱”の真理である。




