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翠蘭の葛藤

やばいやばいやばい。


 顔の火照りがおさまらない。

 熱くて、もうどうして良いのか分からない。


 淑女らしからぬ走りをし、大急ぎで部屋へと向かう。

 部屋の扉を思いっきり開けて勢いよく入ると。


「おかえり~翠蘭、待ってたよ……って!? 誰!?」


 明々が自分の部屋のように、私の寝台で寛いでいた。


「え? 翠蘭だよ?」

「だってだって、その頭に肌! 全然違うじゃん!」


 明々が両手をバタバタと動かし、目を見開き驚いている。


 まるで化け物でも見るかのように。何をそんなに驚いて……?


「髪に……肌……? あっ!」


 そうだった、偽装を解いたままだった。今の私の姿は何も化粧してない素の姿。

 今まで明々は、私の髪色を赤茶色と思っていた訳だし。

 さすがに驚くよね。


「明々……あのこれは……」


 言い訳が思いつかず、言葉に詰まる。そんな私を見て明々は、少し困ったように笑った後、大きなため息をはいた。


「はぁ~っ、あのね。意味深なこと言われて、あんな風に去って行かれたらさぁ? 気になるじゃん。しかも美丈夫の龍人連れてさぁ? だから色々尋問しようと待ってたんだ。まさか見た目の事まで聞くことになるとはね」


 明々がにししと歯を見せて笑う。

 尋問って、今の私はそれどころじゃないんだけども。


「ささ、ここに座って!」


 明々は自分が座っている寝台を手でばんばんと叩き、横に座れと合図する。

 何から明々に話したらいいの? 

 話す事ありすぎて……。


「とりあえずさ? よくその見た目をずっと誤魔化してたね。もったいないよ、すごく綺麗なのに」

 

 明々が私の髪に触れ「ほんと綺麗な赤」と言ってじっと見つめる。なんだか少し照れくさい。


「村でもこうして目立たなくしてきたから習慣でつい。私が化粧上手だって言ったの分かったでしょう?」


 少し得意げになって明々を見つめる。


「ううん……それはもう化粧じゃなくて化けるだけよ」

「ええっ! もうっ、本当に上手なのに」


 全く信じてくれないのが悔しくて、口を膨らませて拗ねると、明々が「はいはい」と言って私に笑いかける。

 それを見た私も、ついついつられて笑ってしまう。


「「ふふふっ」」


 その後、つがいの審査の時に竜王様が倒れたことや、腐死病の事を話した。

 あの時必死で走っていたのは、治すための薬を作るためだったと。


「翠蘭! あんた自分が何をしたか分かってる?」

「え?」

「この国を救ったのと同じだよ? ある意味つがい様よりも凄い。翠蘭が龍貴妃様になってもおかしくない。それくらい凄い事」

 

 番様や龍貴妃様の話が出て……自分が番だと……さっきの飛龍様との出来事を思い出し……顔が火照る。どんどん赤くなっていってるのが分かるほどに。


 そんな私の姿をニヤニヤしながら覗き込んでくる明々。


「翠蘭ったら……龍貴妃になること想像しちゃった? そんで龍王様とのにししっ」

「はわっ!? やっ、そそ、そんな……」


 明々に言われて、余計に意識してしまって顔の熱が上がる。

 恥ずかしくて俯いてしまう。


「もう! 翠蘭ったら可愛い」

「わぁっ」


 明々が私に抱きついてきた。


「まだ他にも色々と聞きたいことはあるけれど、そんな話を聞いたら翠蘭は疲れてるだろうし、今日はゆっくり休んでね」


 そう言って明々が寝台からぴょんっと飛び降りると、手をひらひらと振りながら部屋を出ていった。


「ふぅぅぅぅ……」


 昨日から色な事があったなぁ。

 私は大きなため息を吐きながら、寝台にそのまま横たわると気がついたら眠ってしまっていた。



 ★★★



「……んん? むにゃ……」


 なんか音がしたような……?


 コンコン。


 扉がノックされている。明々はこんな上品なこと絶対にしないし、ってことは……!?


 私は慌てて扉を開けた。

 すると入り口の所で、紫苑様が頭を下げていた。


「わわっ!? 頭を上げてください」

「ありがとうございます番さま」


 私がそう言うと、頭を上げて微笑む紫苑様。なんだか今までと対応が違う気がするんですが。


「急で申し訳ないのですが、このまま私と一緒に来て頂きたい。準備はよろしいでしょうか?」

「番様って?」

「ええ、飛龍様から全て聞きました。翠蘭様が番様だと」


 ひえええっ。飛龍様が紫苑様に話したんだ。なんだかそれはそれで少し恥ずかしい。

 だ・け・ど、翠蘭様って! 私のことを急に様呼びするから逆に緊張して固まってしまう。

 番様ってこんなにも凄いことなの?


 とりあえず、早く用意しないとだよね?



「ええと、ちょっと待ってください。着替えてきます」

「承知しました」


 部屋に戻り慌てて服を着替え、待っている紫苑様の所に向かう。


「お待たせしました」

「大丈夫です。では行きましょう」


 紫苑様は私を番の審査をした部屋へと連れていく。


「この場所は……」

「ここで龍王様が待っていらっしゃいます」


 紫苑様が大きな扉を開け、私が部屋に入ると扉を閉めてしまった。


 そして……部屋の中には飛龍様が待っていたわけで…….


「翠蘭、よくきてくれたのう。今から番の儀式をしようと思うてのう。早くしたくて急かしてしまって……すまんかった」

「え? 番の儀式?」


 飛龍様が申し訳なさそうに眉尻を下げ私を見つめる。


 何を言ってるんだろう? 番の儀式があるの?

 

 どうして良いのか分からず固まっている私をよそに、飛龍様は美しい龍の姿に変身した。

 

 首の所に真紅に煌めく龍心を輝かせながら。

 

 私に「我の龍心に触れろ」と言った。


 この神秘的な龍心に私などが触れて良いのか悩んだのだけど……震えながら龍心に触れた。


 次の瞬間。


 目が開けられないほどに、龍心が光った。




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