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龍心

 目の前に漆黒の龍が現れたのだけど、私は緊張して思わず目を閉じてしまう。

 おそるおそる……ゆっくりと瞼を開くと。


 長さ十メートルは優にある、美しい龍が佇んでいた。


 近くで見たらこんなにも大きくて……そして見惚れるほどに綺麗。鱗までが煌めいている。


 龍の姿でも顔の表情は何となく分かる。

 その顔の下には……真紅色に煌めく宝石が直視できない程に輝いていた。


「あっ……あっ……」


 やはり見える。あれが飛龍様が言っていた【龍心】なの!?

 ってことはだよ?




 …………………



 …………………



 …………………





 ————私が番!?



「はわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 思わず変な声が漏れる! 飛龍様に変な奴って思われちゃう。


 落ち着け私、こんな時は深呼吸。


「すぅ~……はぁ~……すぅ~……はぁ~……」


 うん。


 ちょっと落ち着いてきた。


 心臓の鼓動は、今まで聞いたことないくらいに早鐘を打っているけれど。


 大丈夫。


 もう一度深呼吸をし、飛龍様に声をかけようと近寄ったのだけれど、なぜか様子がおかしい。


 ついさっきまで、体が地上から少し浮いていたはずなのに、今は全ての体が床についている。

 さらには私を見つめていたはずのお顔までが床についていた。


 ぐったりとし息苦しそうにゼェゼェと息を吐く飛龍様。


 私が動揺していた数分の間に、一体何があったって言うの⁉︎


 慌てて飛龍様のお顔近くに駆け寄って、声をかけた。


「飛龍様! 大丈夫ですか!?」

「…………だい……ぶだ」


 目線だけ私の方を向け、苦しそうに返事を返してくれるその姿が痛々しい。


 さっきまであんなに元気だったのに! どうして!?


 龍人族は体が強くて、病気になどならないんじゃないの?


 とりあえずこの事を誰かに知らせないと!


「誰か呼んできますね!」


 急いで扉の所まで走って行き、勢いよく扉を開けると、すぐそばに私をこの部屋に連れてきてくれた紫苑様が立っていた。


「どうしたんですか? 急に部屋から出てきて……番の審査が終わったにしてははっ!?「いいから来てください」

 

 紫苑様の言葉を遮り、私は腕を強く引っ張って部屋の中に連れていく。


「何をするのですか!? え……飛龍様!」


 紫苑様は、私に向かって文句を言おうとするも、飛龍様の姿に気づき慌てて走り寄る。


 さっきまでは、鱗の色が漆黒に煌めいていたのに、今は一部が紫色へと変色してるように見える。


 そんな飛龍様の姿を見て、真っ青な顔をして震えている紫苑さん。


 え……? なに!?


 どうしたと言うの?


「そんな……どうして飛龍様がっ……」


 体を震わせながら、その場を動けずにいる紫苑さんに向かって、突然威嚇し、出て行けとでも言っているように、手で床を叩く飛龍様。


 そんな飛龍様の様子を見て踵を翻し、私の手を取り足早に部屋を出て行こうとする紫苑様


「ちょっ、どうするんです? 医者を呼ぶのですか?」

「………………」


 私が必死に質問するも、紫苑様からは返事が返ってこない。


「紫苑様! 飛龍様はどうなるのです?」


 再び強く質問すると、蚊の鳴くような声で答えが返ってきた。


「…………あの病気は……腐死病(フシビョウ)にかかると我ら龍族は腐り落ちて死ぬ」

「え? 死ぬ?」





 何を言っているの? 


 飛様が死ぬ?


 番だとわかったばかりなのに?





 紫苑様の言っている意味が理解できない。


「看病しようにも、腐死病は龍人族に感染するので誰も近寄ることさえできない。千年前にこの病気が発生した時も、三百人という龍人が死んだのだ。あの部屋は封鎖します」

「封鎖!? でも……それじゃあ飛龍様は一人で苦しむというの!? 痛みを和らげる薬など……」

「……腐死病を治す薬は開発されていないのだよ」


 紫苑様はまるで自分のことのように、苦しそうに話してくれた。

 その姿は真っ青な顔が治るどころか、ドンドン酷くなっているように見える。

 紫苑様だって至尊の存在で在られる飛龍様が亡くなるなんて信じられないよね。


 まだ脳内で理解が追いつかない。


 ………私は。

 優しい瞳も、無邪気に笑う笑顔も……もう見れないの?


「そんなのいやだ!」


 紫苑様があの体が全て紫色になると腐り落ちて死ぬと言っていた。


「紫苑様! 私は龍人ではありません。この病気はうつりません。どうか私に飛龍様の看病をさせて下さい」

「え? 何と?」

「私には薬の知識もあります。少しでも痛みを和らげることが出来るかもしれないのです。お願いします」


 私は深々と紫苑様に頭を下げた。


「…………あなたの薬の知識はすごいと知っています。お願いできますか? 少しでも飛龍様のっ……いたっ、痛みを和らげて頂けますか」


 紫苑様は今にも泣きそうな顔で、私に向かって深々と頭を下げた。


「ちょっ、頭を上げてください!」

「ありがとうございます」

「では私は部屋に戻って、必要な材料を取りに行きたいので、ついて来てもらえますか?」

「もちろんです。お供いたしましょう」


 私と紫苑様は作法など無視し、大股で廊下を必死に走っていった。


 飛龍様。待っていて下さいね。

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