6.遭逢する天才達
「なあ、ベシュテモン。確かに馬に乗るのは嫌いじゃあないがあと何分ほどこれに乗るのかね?」
どこまでも緑と青が続く、そんな景色の平原をリッター軍は進行していた。
「あとちょうど一日ほどですかね。分換算はご自分でしてください。」
ロイエンの実際、レナース要塞までの距離や地図は頭に入っていた。ただこれは尻が痛くなってきたロイエンの皮肉だった。
「そうかい、一日かい。ならどうだ。一度みんなでお家に帰らないか。遠足にしては荷物も人数も距離も少しばかり桁が違う。」
「冗談ばかり言ってないで、真面目にしてください。貴方の下には三千の兵がいるんですよ。」
「そういう君もその三千に含まれているんだろう。なら上官の言うこと聞きたまえ。」
ベシュテモンは中尉として、ロイエン隊の下についていた。だが彼女の扱いと、関係性は他の兵士とは比較対象にもならなかった。実際、特殊部隊においても、ロイエンはベシュテモンの事をかなり信頼している。
ただ、ベシュテモンを除く三千の兵はこの隊長を陰で『黒の若いおじさん』と呼んでいた。20歳で3000の兵を率い女軍人と見方によってはイチャつく彼のその姿は少々鼻についたのかもしれない。
同時刻、レナース要塞にて。
「閣下、報告です。東側から敵軍の進行を確認。数は目分量で3万程の大軍です。ここ、レナース要塞に向かってきていると思われます!」
それを聞いたファッケイ大将は腰掛けた椅子でぐるりと回った。そしてコーヒーを一口含み、不敵な笑みを浮かべるのであった。
ファッケイはレナース要塞司令官だった。
彼は俗に言う、『天才』だった。士官学校を主席で卒業。彼が関わる戦場はどれほど不利な状況においても『敗北』の二文字は存在し得なかった。彼の存在は民衆にとっての唯一の希望となっていた。彼は20歳にして大将にまで上り詰め、レナース要塞のトップに君臨しているのであった。
「兵を直ちに招集せよ。向かってくる馬鹿どもを木っ端微塵に吹き飛ばす。」
早馬の方向を聞いたファッケイは部屋中に響く声量でそう言った。
「奴らはどれくらいでここに到着するんだ。」
「おおよそ、一日ほどかと。」
この問答を済ませた後、彼はこの部屋を立ち去った。