4.才色兼備のプログレム
例の舞踏会の翌日、レーネはシューベルト邸の寝室のベッドで丸くなっていった。
この時、すでに太陽は高く昇っており、時刻にして13時を時計の針が回った頃であった。彼女は何度もロイエンについて思い起こしたが、何とも形容し難い不思議な気分になるのであった。
なぜ、私は彼の事が気になったのだろう。ただ、彼を見かけた時まるで運命に促されるかのように視線が釘付けになった。そして妙な既視感。彼との会話に感じた違和感に、心の内に靄がかかった様だった。
「リーネ嬢。お稽古の時間です。」
寝室のドアに鳴った数回のノックの後、ガチャリとドアが開きそこから入ってきたシュテーゲンがそう言った。
「分かってるわよ。」
その恣意的なリーネの問答にシュテーゲンは笑って見せた。
「そうですか、しかし今日は2時間遅刻です。いや、寝坊です。」
「寝てないわよ。」
シュテーゲンはリーネのベットの方に近づき、 こう言った。
「どうかなされましたか、リーネ嬢。」
リーネはベッドに頭をつけたまま、シュテーゲンに返事をした。
「何にもないわ。大丈夫よ」
「私はリーネ嬢が母上様の腹の中から出てくる時からの付き合いですよ。」
シュテーゲンは右手で自分の腹を撫でてみせた。
「お母様の話はやめてって言ってるでしょ。」
リーネはまだ寝転んだままだった。
「運命の出会いでもあったのですか?」
リーネは大きく息を吸い、大きく息を吐いた。そして、
「本当に何でもないの、さあお稽古に行きましょう。」
シュテーゲンは一つため息を吐き、観念した。
「そうですね、なんせ既に2時間も遅刻していますから。」
レーネは普通、こんな姿は誰にも見せなかった。ベッドに寝転んだままの会話なんてもってのほかだった。レーネ・フォン・シューベルトは完璧な女性でなくてはならなかった。例え父親の前でも。しかしシュテーゲンにだけは20歳の女性の面倒臭い部分も見せるのだった。それは何よりもシュテーゲンへの信頼の証だった。
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