3.胸中成竹のジーニエス
グレイブス元帥は少々小太りの黒人だった。彼の用兵術は軍人からの信頼が厚く人望もある。有能な軍人。有能な司令官。
それがロイエンのグレイブスへの評価だった。
「早速だが、始めるぞ。」
グレイブスが口を開いた。
「現在、敵国である帝国軍は腐り切っている。政治体制はもちろん、国民は疲弊し切って今は感染病で多くの死者が出ているとのことだ。おそらくこのまま放っておいても彼らは自滅の運命を辿る一方だろう。だが、我々は彼らを自滅などさせない。完膚なきまでに叩き潰し、憎っきエンデヴの血筋を絶やす。そして帝国国民を奴隷として扱い、我々の勝利の酒を裸足で運ばせるのだ。その為に今から発表する作戦を実行してもらう。」
グレイブスはそう言った。
ロイエンはグレイブスの評価に一つ付け加えるとするなら、『無能の阿呆』だった。
「それでは作戦を発表する。」
「少し待ってもらえますか。」
ロイエンはグレイブスの言葉遮るようにそう言った。
「今閣下が仰った帝国軍への追い打ちは評議会での決定ですか?」
「もちろんだ。民衆を代表した彼らが下した英断であり、それは国民の意思を意味する。」
ロイエンは吹き出してしまいそうだった。これが笑わずにはいられない。阿呆もここまで来ると、一種の芸術ではないか、彼はそう思った。
英断だと?愚断だよ。
国民の意思だと?脳みそが脂肪に侵食してイカれてしまった人間の意思だよ。
そして政治や軍のトップは貴族に尻尾を振る首輪の付けられた犬だ。
ロイエンは黙り込んでしまった。
彼は分かっていたのだった。
その阿呆の命令通りに虐殺を行ってきたのが彼自身であるという事を。
「ロイエン准将。良いかね?」
「ええ、結構です。お時間取らせましたね。」
何も良くないよ、とロイエンは思った。
グレイブス元帥は大きく息を吸って続けた。
「我々はレナース要塞を攻略する。」
グレイブス元帥はそう言った。
レナース城とは魔法帝国の領地とリッター自由共和国との領地の境目に立ちはだかる、主に迎撃と兵站の両方の能力を持つ要塞である。
これ程、慢性的に長年戦争状態にあった帝国軍が実際に領地を奪われることが無かったのはこのレナース要塞が難攻不落であったからである。
その要塞を攻略しようというのだ。
いくら政治や軍の中枢が腐っているとはいえ、やはりレナース要塞を攻略するのはするのは決して容易な事ではない。
その後、グレイブス元帥から今回のレナース要塞攻略作戦においての特殊第0部隊の役儀について隊員は聞かされた。
会議が始まって30分程で解散となりグレイブス元帥は軍事作戦会議室から立ち去った。
レナース要塞の一室にて一人で天井を見上げブツブツと独語を呟く一人の男がいた。
「ファッケイ閣下。そろそろお休みになられては?」
「そうだな、サンダー、そのセリフ、そっくりそのままお返しするよ。」
二人の男達はそう言いながらコーヒーを流し込んだ。