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2.隔世之感のノスタルジー

魔法帝国は今から遥か昔に誕生した。


その時代、いや、いつの時代も同じだが『魔法こそ力』この言葉を体現した様な時代だった。この時代に数々の魔法が発明、解析され、その技術は昨今の魔法学よりも諸所として先進的である程であった。そうして魔法による戦争や魔法を巡る戦争などが多発し、数々の独立国家が誕生した。その時代の人々はある意味で、自由だったのかもしれない。金も、権力も、地位も全ては魔法だった。


そんな時代に一人の赤子が産み落とされた。名をエンデヴと言った。


貴族でもなんでもない、母親すらも不明な彼は魔法の天才だった。いや、天才という表現は些か過小評価な気がするが。ともかく魔法で世界を統一するには十分な程の才能だった。そんな彼についた渾名は魔神・エンデヴだった。その名の通り魔法を司どる神だと言われていたのだ。彼がこの世界を統一してからは魔神から魔王と呼ばれるようになった。これはその時代の手記にもそう綴られていたことからその呼び名が公称である事を示していた。彼は完全な魔法実力主義社会を構築した。もとより、十分な程の魔法実力主義な社会であったが、彼には不十分だった。生まれて魔力が少ないもの、なんらかの障害で魔法が使えない者は『出来損ないの悪魔』として死罪に値した。そして当然、彼が王の座に即位してから、魔法の発明、研究、解析は急速的に発達した。その数えることは不可能な無限とも言えよう量の魔法を魔王は操る事が出来た。


しかし、魔神、魔王と呼ばれた超越的な天才でも、彼は一人の人間だった。

残念ながら彼が生前、探究した不老不死の魔法は発見も発明されることも無かった。彼の死から100年程は彼の目指した魔法実力主義社会が保たれていたように思えた。

しかし時間と共にエンデヴの尊厳は失われ、彼の子孫たちは国を私物化し権力争いを始めた。そしてそこに付け入る様に帝国から脱出した民衆達によって作られた国がリッター自由共和国である。彼らの存在は国として機能を失っていた帝国の上層部を怒り狂わした。

帝国の王族や貴族が『我らがエンデヴは絶対的な神である』そう思っていたのは事実だった。しかしその信仰心を自分の都合の良いように改ざんしていたからバツが悪かった。

歪んだエンデヴへの信仰心と醜い欲望が混ざり合い帝国軍の上層部は自浄機能を失ったただのゴミ溜めとしていた。帝国軍はリッター自由共和国との慢性的に続く戦争の末、ようやく敗戦の二文字が低能な王族や貴族どもの頭に浮かんでいる今日この頃であった。


「ダメだな。我が軍に勝ち目などもうないだろう。」

ため息混じりに一人の軍人がそう言った。

彼はファッケイ・ストリンガー。

彼の髪は銀髪であった。しかしそれは決して色素が抜けた老人の様ではなく、むしろ凛々しいライオンのたてがみの様であった。身長は190センチを超え軍服が似合い、透き通った海の様なブルーの瞳を持つ20歳の青年。それが彼だった。


「閣下、お言葉には気をつけてください。」

彼もまた20歳にして年上に軍人に閣下と呼ばれ頭を下げられる様な人物であった。

「わかってるよ、サンダー。ただ事実だろう。早く敗戦してしまえばいいだ。こんな国。低能なエンデヴの末裔共と貴族共が公開処刑にて火魔術で焼き尽くされるその姿を俺は早く見てみたいものだよ。」

ファッケイに頭を下げるサンダーと呼ばれた男は屈強な筋肉を身に包み、伸びた金髪が肩にかかっている男であった。彼は苦笑しながらこう言った。

「閣下。この国が負けるという事を本当にお望みですか?」

「冗談だよ、サンダー。この国は勝つよ。理由が分かるか。」

サンダーはしばらく考え込んだ。彼には答えが分からなかった。それは決してサンダーの頭脳の問題では無いことが次のファッケイのセリフで明らかになる。


「私がいる。私が居るからには、この国を負けさせない。魔法帝国はリーター自由共和国に勝つ。」

そう言う彼の蒼眼には炎が宿っていた。この炎の正体なんだろうか。復讐か、野望か。

その答えは彼自身も理解していなかった。だが、その炎は大きくそして、熱く燃え上がっている事だけは確かだった。

英雄城の一角にある部屋にロイエンはいた。そこは軍事作戦会議室であった。


彼が所属する特殊第0部隊はグレイヴス元帥の直属の部隊であった。特殊第0部隊に所属している隊員はロイエンを含む8人で、その全員が円卓を囲い込むように姿勢正しく着席していた。いや、ロイエンは少々リラックスした姿勢で何やら本を読んでいる。


彼にとってこの本を読む時間というのは愛すべきものだったが、この時間は憂鬱な会議へのカウントダウンだという事実がその愛を少々濁らせた。


「隊長、本をしまってください。」 赤毛のショートヘアで整った顔のべシュテモンはできるだけ小声でロイエンに言った。

「このページだけ読ましてくれないか。キリが悪いんだ。」

「言ってる場合じゃありません。元帥殿がいらっしゃるんですよ。」

ベシュテモンはいつの間にかロイエンの方に体を倒し手首をペシっと叩いた。

「わかったよ。」

彼は不服そうに本を机の上に置き腕と足を偉そうに組んだ。

それを見たベシュテモンはため息を吐かずにはいられなかった。

「なぁB.Mベシュテモン。隊長はガキなんだよ。少しばかり遅い反抗期が来てるんだ。」

そう言ったのは若々しい筋肉と金髪の整えられた直毛を生やす隊員の一人だった。

「うるさいぞ、ラフェ。」

そう言われるとラフェと呼ばれた男はいじわるな笑みを浮かべた。


そこで扉が開く音がした。隊員達は先程の3人の会話でリラックスした姿勢を反射的にただした。


「揃ってるな。」

グレイブス元帥の軍靴が木造の床を叩く音が少々埃っぽい空気を伝って隊員達の耳に届いた。ロイエンといえども足や腕は組んではいなかった。

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