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第四章 第一王子ギャレス

 翌朝、私達は陽が昇り始めると同時に村を出た。

 まさか、攻略対象キャラであるガウェインとぺリノールが魔王討伐の仲間になるなんて夢にも思わなかった。


 何しろ、この二人はゲーム中ではギャレスと聖女であるヒロインの魔王討伐に同行するメンバーなのだ。


 そんなキャラが、本来の魔王討伐隊から外れて、個人で動いている私に同行するなんて、良いのだろうか。


 まぁ、本人たちが同行すると言い張る以上、私には断る理由はない。

 二人を拐かした誘拐犯にならないように手は打ってあるし、彼らがいてくれたら心強い事には変わりないのだから。


 あとは魔王軍の侵略を阻止して平和を手に入れ、処刑さえ回避できれば万事解決だ。


 そう意気込みつつ、カルネリアン帝国へ向けて出発した、その直後だった。

 鬱蒼とした山道の向こうから、人の気配がした。


 私達が警戒しながらその相手の姿が見えるまで身構えていると、茂みから現れた人物は私達を見て歓喜の声を上げた。


「ガウェイン! ぺリノール! こんな所にいたのか!」


 銀髪碧眼の美青年、その顔に、私も流石に驚いた。


「ギャレス殿下!」


 そう、それは私の婚約者であり、ルベウス王国の第一王子であるギャレス・ルベウスだったのだ。

 大層な鎧を身に着けた彼の後ろには、聖女のセリナがいる。


「殿下、どうしてここに……他の者達は?」


 ガウェインも驚きつつ、周囲を見渡す。気配を探っても、ギャレスとセリナ以外見当たらない。


「ああ、実は、一昨日お前から巫山戯た手紙が届いた事をきっかけに、魔王討伐隊でお前の捜索を行う事になったんだよ。で、昨日出発したら、今度はぺリノールまで離脱するって手紙が城に届いたと知らせを受けてな。セリナにお前達の魔力探知をしてもらって探していたんだが……」


 ギャレス殿下は一旦言葉を切る。

 背後に立つセリナを気にして言葉を選んでいるようだ。


「セリナの示した道があまりに険しくて馬が通れず、仕方なく俺とセリナだけで飛翔魔術を使って先へ進んだんだ」


 妙だな。


 聖女セリナの魔力量と魔術の才能は、ゲームの設定ではかなりチートだったはずだ。

 それこそ、飛翔魔術で一隊丸ごと谷を越えさせられるどころか、そもそもガウェインやペリノールを召喚するなり、探知魔術で二人の居場所を突き止めたらそのままそこへ転移魔術で直接移動できそうなものなのに。


 不思議に思いつつセリナに視線を移すと、ばっちり目が合ってしまった。


「初めまして、聖女のセリナですぅ! お名前はなんて仰るんですかぁ?」


 妙に甘ったるい口調で尋ねながら、私に上目遣いを仕掛けて来た。


 そうか、今の私の見た目は十七歳の少年だった。

 異世界から召喚された直後から、彼女が男に見せる態度はこんな感じだったな、と他人事のように思い出す。


 一方で、ギャレス殿下の婚約者として挨拶したエレストリアとしての私には、物凄く素っ気ない態度だった。

 そのため彼女の第一印象は『同性からは嫌われる男好きの超絶ぶりっ子』である。


 まさかその矛先が自分に向く事など考えてもいなかったので、私は若干引き気味で答える。


「え、エレスです」

「まぁ素敵なお名前! それに魅力的な……」


 言いながら私の顔に手を伸ばして来たので、思わず身を引いてそれを躱した。


 何だろう、今、完全にロックオンされた気がする。

 ギャレスルートに入っているはずのヒロインに、魔術で男装中とはいえ悪役令嬢の私が。


 そんな事、絶対にあるはずないのに。


 と、私を見たギャレスが怪訝そうに眉を顰めた。


「エレス、お前は一体何者だ? ガウェインとぺリノールに一体何をしたんだ?」

「僕は何もしていませんよ。旅の途中で知り合っただけで、ついてくると言って聞かないので困っているくらいです」


 笑顔で応えてやると、ガウェインとぺリノールが露骨に不満そうな顔をして振り返った。


「エレス様! そんな冷たい事を仰らないでください! 私はエレス様のお役に立ちたいだけです!」

「僕だって! エレス様の魔力をもっと間近で感じたいだけです!」


 完全に私に心酔しきっている様子の二人に、ギャレスは驚いた顔をしている。

 この二人の態度はまるで魅了魔術にでも掛かっているかのようだが、当然ながら私は何もしていない。


「……どういう訳か、この通りでして。申し訳ありませんが、僕は本人の意思を尊重して、このまま魔王討伐に協力してもらうつもりです」

「魔王討伐だって? 君が?」


 若干馬鹿にしたような口ぶりで、ギャレスは私を見下ろして来た。


 これには正直、カチンときた。

 確かに私は、ギャレスと違って勇者として認定されているわけではない。

 しかし素手で殴り合ったら、今の私ならギャレスに勝つ自信がある。

 勿論、彼は前世の私のことなど知りもしないのだから悪気はない。が、それでもギャレスに馬鹿にされるのは正直気分が悪い。


 私は少々ムキになって言い返してしまった。


「何かおかしいですか? これだけ魔族が人間の国を侵略してきているんです。戦えるうちに戦った方が良いに決まっているじゃないですか。僕は、誰かが魔王を倒すのを待ってはいられない。だから自分が倒しに行くと決めたんだ」


 そう強く言い放つと、ギャレスは一瞬ぽかんとして、それからじっと私の顔を見つめた。


「……エレス、俺達、過去に会ったことがあるか?」

「へっ? そ、そんな訳ないじゃなですか! 僕はただの旅人ですよ!」


 必死に誤魔化すが、ギャレスはまだ疑いの眼差しを向けてくる。


「……そうか? だが、それにしても君は素晴らしいな!」


 ギャレスはぱっと笑顔になって、私の両手を勝手に掴んだ。


「俺は感動した! 人類の未来を危ぶみ、自ら危険を冒して魔王に挑むその心意気! 実に素晴らしい!」


 おん? この流れ、物凄く既視感がある。

 ついでに、妙にキラキラしたその眼差し。


 嫌な予感と鳥肌が、一瞬で全身を駆け巡った。


「是非その旅に俺も同行させてほしい!」


 嘘だろぉっ? 思わず内心でそう叫ぶ。


 何でそうホイホイと、攻略対象キャラが悪役令嬢の仲間になりたがるんだよ。

 おかしいだろ。


 そう思いつつセリナを見ると、彼女は彼女で、ギャレスではなく私を見つめていた。


「私もギャレス様に賛成ですぅ! エレス様! 私も是非ご一緒させてくださいな!」


 満面の笑みでそう迫る彼女に、私は全力で首を横に振った。


「遠慮申し上げます! 第一王子殿下と聖女様がご同行なんて、恐れ多すぎますので! では!」


 相手の反論を聞きたくないため、私は飛翔魔術を唱えてその場を離れた。

 当然のように、ぺリノールがそれに続き、山間でとても走って追いかけられないと慌てたガウェインが彼の両足にしがみ付いた。


「っ! ガウェイン殿! 重いです!」

「俺を置いて行くな! 俺はエレス様についていくと決めたんだ!」


 猛スピードでカルネリアン帝国の方に向かって飛び、ある程度移動したところで、岩がゴロゴロしている荒地を見つけて着地する。


 これだけ飛べば流石に振り切っただろう、そう思ったが、私は失念していた。

 ルベウス王国の王族は皆強い魔力を持ち、それなりの魔術を扱う事ができると。


 その数秒後に、しっかりついて来たぺリノールと彼にしがみつくガウェイン、その更に数十秒後に、ギャレスとセリナが飛んで来た。


「何故逃げる!」


 憤慨した様子で詰め寄ってくるギャレスに、私は後退りながら叫ぶ。


「何で追いかけてくるんですか!」

「君が逃げるからだろう!」

「あぁん! エレス様ぁ! お待ちになってぇ!」


 追いかけてくる二人から距離をとりつつ、私は額を抑えたのだった。

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