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第二章 山奥のプルメリア村

 その日は湖の辺りで野宿をした。

 ありがたいことに、騎士団長であるガウェインには野営経験があったので、テキパキと火を起こし、私が寝るためのハンモックまで作ってくれた。


 意外とデキる男だったことに感心しつつ、私は焚き火を眺めながら彼が作ってくれたスープを口に運んだ。


 美味い。なんだこのスパダリ感は。

 流石はゲームの攻略対象だ。スペックが高い。


「ところで、これからど何処へ向かうおつもりですか?」


 ガウェインの問いかけに、私は荷物から地図を取り出して開いた。

 大陸全土が描かれた地図だ。


 大陸は横長に広がっており、ルベウス王国はその南端に位置している。

 そのまままっすぐ北上した先に、カルネリアン帝国の都があり、そこに魔王が棲んでいるといわれている。


「最短距離で魔王城に挑む。ルベウスの領土を出た後、大陸中央までは人間が住む村も点在しているがその先は魔物の巣窟だ。かなり危険な道のりになる」


 脅かすつもりはないが、覚悟は必要だ。

 そのつもりでガウェインを見ると、彼は何故かキラキラした目で私を見ていた。


「エレス様と共に行けるのならば、何処であっても天国です!」


 おん? コイツ、なんか妙な扉を開いてやいまいか?


 少なくともガウェインから見た私は、四歳も年下の十七歳の少年のはずだ。

 まるで恋する乙女のような目で見られると流石に落ち着かない。


 なんだか嫌な予感がしつつ、その件についてはあまり触れたくもなくて、私は話を逸らす事にした。


「次の目的地は、プルメリアという村だ。山奥だが、強い魔術師が一人いて魔物を退けているらしい」


 ゲームにはプルメリアという村は登場しない。そんな強い魔術師が住んでいる村ならば何かしらイベントが起きても良さそうなものなのに。


「ああ、それは私も聞いた事があります。何でも、相当強い魔術師だとかで、過去に国家魔術師団に引き入れようと勧誘に出たそうなんですが、追い払われてしまって結局会えなかったそうです」

「へぇ。わざわざそんな僻地まで……」


 地図で見る限り、プルメリアはかなり山奥にある。そんなところまで国家魔術師団が勧誘に出るとなると、その実力は相当なものだ。


 そういえば、国家魔術師団の団長もゲームでは攻略対象だったな。

 ぺリノール・オランジュ。十八歳にして国家魔術師団長に上り詰めた天才中の天才。

 ゲームでは、ヒロインとは同い年ながら天真爛漫な弟系キャラで人気を博していたっけ。


 私は幼い頃からギャレス第一王子の婚約者だったため、ゲームの攻略対象たちとは一通り面識がある。


 唯一会ったことがないのが、ゲームでのラスボスであり、実は隠しルートで攻略対象キャラになる魔王、ゼフィリオ・ドラド・カルネリアンだったりする。


 魔族の皇帝という超絶俺様な傲岸不遜キャラ。加えて筋骨隆々の美しい肉体美。

 筋肉フェチだった前世の私の最推しキャラである。


 それでいうと、ギャレスは細すぎて筋肉が全然足りないし、騎士団長のガウェインもいわゆる細マッチョで、私の理想にはちょっと足りない。

 しかしそれを今本人に言うと、ここで筋トレを始めかねないので黙っておく。


「まぁ、滞在するだけなら追い払われたりすることはないでしょうし、気楽に行きましょう」


 ガウェインの言葉に、私は妙に胸騒ぎを覚えつつも頷くしかなかった。


 その夜は交代で仮眠を取り、陽が昇り始めるのと同時にプルメリアを目指して出発した。

 私一人なら飛翔魔術で村から村へ飛んで移動するのだけど、もう一人を共に飛ばすとなると魔力を操作するための技術が必要な上に、一人の時とは比べ物にならないくらい魔力も体力も消耗してしまうので、歩けるところは徒歩で移動する事にした。


 とはいえ、プルメリアの直前にある山間の谷はかなり危険そうだったので、やむを得ずそこから村のすぐ手前まで飛翔魔術を使用した。


 村が見えてきたところで地面に降り立つと、その瞬間突如足元に魔法陣が浮かび上がった。


「っ! これは罠魔術!」


 魔法陣の内容を解読するよりも早く、足元から竹槍が無数に突き出して来た。


飛翔魔術ヴォランス!」


 咄嗟に唱えて、ガウェイン共々空中へ避難する。


 しかし、今度はその空中にも魔法陣が出現した。


「っ! 防御魔術ディフェンシオ!」


 魔力が障壁を成した直後、魔法陣から火の槍が雨のように降り注いだ。


 全て防ぎきってから、防御魔術を保持しつつ、地に降りる。


 あまり高度な魔術は使えないながら、魔力を防壁として利用する防御魔術をきちんと習得しておいて助かった。


 私の背後でガウェインが羨望と陶酔の眼差しを向けてきているのを、必死で気付かないフリをした。


「……二段階の罠魔術……かなり高度ね。それに、村そのものにも結界魔術が掛けられている……」


 呟きつつ、私は大胆に村の方に歩み寄った。

 そして、先程から感じていた気配の元を辿り、地を蹴って一瞬で間合いを詰める。


 気配の主が茂みに隠れようとしたのを、咄嗟に腕を掴んで強く引いた。


「出て来いや!」


 前世にテレビで見た、プロレスラーが叫ぶ光景が脳裏に浮かぶ。


「うぎゃっ!」


 私に捕らえられた人物が、木の陰から引き摺り出されて地面に転がった。

 その姿を見て、私とガウェインは驚いて声を上げた。


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