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第一章 騎士団長ガウェイン

 意気揚々と家を飛び出し、王都を取り囲む高い壁の外に出た矢先、正面から子供が走って来たかと思った直後、早速魔物と出会でくわした。

 どうやら子供がうっかり壁の外に出て魔物に遭遇したらしい。


 狼ほどの大きさの黒い獣だ。

 ギラギラと光る赤い眼をこちらに向けて唸っている。


 だがしかし、私の攻撃力と防御力は何故か既に最高レベルに達している。

 そんな私にとって、この程度の魔物など敵ではない。


 私は子供が走り去った方へ魔物を行かせないように、前に出た。

 王都への入口はすぐそこだ。そこにさえ辿り着ければ、あとは門番が保護してくれる。


 私は目の前の魔物に集中した。


「あんまり乱暴はしたくないんだけど、ごめんね」


 立ちはだかるのならば容赦はしない。


 魔物が地を蹴って私に飛び掛かって来る。

 私は拳に魔力を込めて、その顔面を思い切りぶん殴った。


 ギャアと耳障りな悲鳴を上げて、魔物が吹っ飛び、そのまま絶命して塵になって消えていく。


「ふぅ……ん?」


 額の汗を拭って、私はふと、木の陰に蹲っている人物に気が付いた。どうやら気絶しているらしい。


「大丈夫ですか? 魔物はもう退治したので、安心して……えっ」


 声を掛けると、相手も気が付いたようで、ゆっくりと顔を上げた。

 その顔を見て、思わずぎょっとする。


 ガウェイン・ロサート。

 二十一歳にして王立騎士団の団長を務める、ゲームではヒロインの攻略対象となるキャラクターだ。


 王立騎士団長が、何故こんな所で蹲っているのだろう。


「た、助けていただき感謝いたします! 私はガウェイン・ロサート。王立騎士団の団長を務めています」


 知っています。会ったこともあります。


 と言いかけて、言葉を呑み込む。

 今の私は男装している状態なので、エレストリア・プラテアード公爵令嬢だと名乗っても混乱を招くだけだ。


「わ……僕はエレス。旅の者だ……王立騎士団長殿が、何故こんな所で?」


 咄嗟に偽名を名乗る。何の捻りもないが、呼ばれ慣れた名前の一部であった方が反応もしやすいし良いだろう。


 私の質問に、ガウェインは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


 王立騎士団長ともなれば、先程程度の魔物など容易く退治できるだろう。

 何かあったのだろうか。


「実は、ある貴族の子供が家を抜け出して行方不明になったと通報があり、騎士団で手分けして探していたんですが、子供を見つけた矢先に先程の魔物に遭遇してしまいまして……」


 ああ、それで先程子供が走って逃げて来たのか。


「情けない事に、気配を絶った魔物に気付くのが遅れ、子供を庇って、足をやられてしまったんです」


 言われて見てみると、彼の左足には獣に噛まれたような傷があった。

 魔物によってつけられた傷は通常の怪我よりも厄介だ。そこから魔力が流れ込み、毒のように人間の身体を蝕んで、放置すればやがてそこから壊死していってしまうのだ。


「そうだったんですか。それは災難でしたね……」


 言いながら、私はガウェインの左足に手を翳した。


治癒魔術サニターテム!」


 唱えると、私の魔力がガウェインの足を包み込み、瞬き一つの内に傷が消え去った。

 治癒魔術は、程度によっては上級魔術扱いされるが、傷が大きくなければさほど難しくはない使えるように練習しておいて良かった。


「っ! なんと! 魔術師の方だったとは! ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」


 ガウェインは過剰とも思える声量で言い、立ち上がって体をくの字に折り曲げた。


「そんな大袈裟な……僕はもうこの街を出る。また次に会えたら、食事でもご馳走してくれたら充分さ」


 適当な事を言って立ち去ろうとしたが、ガウェインは私の外套をギュッと掴んだ。


「ぐぇっ! な、何か?」

「エレス様! 街の外は魔物が跋扈していて非常に危険です! どうか私を共にお連れください!」

「……はぁ?」


 お前は王立騎士団長だろうが。何を世迷言を。


 全力でそう顔に出すと、ガウェインはぐっと拳を握り締めた。


「命の恩人であるエレス様を、みすみす危険な地へ送り出すなど私にはできません! 貴方様がいらっしゃらなければ、私は死んでいました! 貴方様に救われたこの命、貴方様のために使わせていただきたく!」


 わぁ、面倒臭いヤツだな。


 なんか勝手に熱くなっているが、流石に王立騎士団長を魔王討伐に巻き込む訳にはいかない。


「……すまないが、僕勇者を目指している。魔王討伐というこの使命のために、たまたまここで出会っただけの君の命を危険に晒す訳にはいかない。どうか一人で行かせてほしい」


 キリッとした顔で言い放ち、彼の手を離させると、私は飛翔魔術を唱えて文字通りその場を飛び去った。


 走って逃げたのでは、絶対に追い付かれると思ったからだ。

 ガウェインはゲーム中でも体力馬鹿という設定で、魔力はほとんどないがその分物理的な攻撃力が異常に高いのだ。勿論足も速い。


 だが、空を飛んで逃げれば流石に追いつけないだろう。そう考えたのだ。


 しかし、私の読みは甘かった。


 次の目的地である人間が住む村までは遠く、元々野宿をしようと思っていた湖の畔に降り立った直後、ガウェインが背後から走ってきたのだ。

 これには流石の私も度肝を抜かれた。

 飛翔魔術は早馬並みの速度で飛べる。それを、走って追いかけて追いついただなんて、どんな脚力だよ。コイツは馬か。


「エレス様! たった一人で魔王討伐という重大使命に命を賭されるお覚悟に感銘を受けました! 不肖ガウェイン、地の果てまでもお供いたします!」


 ここまできて追い返すこともできず、私は仕方なく、騎士団に連絡を入れる事を条件に、同行を許可した。

 ガウェインに手紙を書いてもらい、私が魔術を使って王城へ飛ばす。そうでもしないと、私が騎士団長を誘拐した罪に問われかねない。


 まぁ、万が一そうなったら逆に、ガウェインに公爵令嬢誘拐の罪を被せるしかないが。泥沼裁判はこっちの世界でも相当に厄介なのでできればそれは遠慮したい。


 何はともあれ、予想外にも、騎士団長ガウェインが魔王討伐の仲間になったのだった。

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