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第十七章 悪魔の鏡

 ゼオの転移魔術によって移動した先は、《悪魔の鏡》があると思われる場所、ルベウス王国の王都の外れの神殿だった。


 神殿は聖女のための部屋などが用意されている、いわば聖女の住まいでもある。

 セリナの場合はギャレスに取り入って王城にも部屋を与えられていたから、主として居住しているのはここではないと思われるが、何かを隠すとしたらこちらの方が都合が良いだろう。


 魔族の所有物である《悪魔の鏡》を神殿に持ち込むとは、大胆不敵としか言いようがない。


「……ここ?」

「ああ、探知魔術で視た後から気配は動いていない。間違いなくここにある。ただ、この神殿には結界が張られている。転移魔術でいきなり中に飛べば弾かれていただろうな」


 私たちが今いるのは神殿の正面入り口の脇だ。

 ゼオが本気を出せば、結界が張られていようが転移魔術で直接中に入ることもできただろうが、そうすると神殿の結界を破壊することになってしまうので、敷地外に来たのは正解だ。

 神殿の結界が破壊されたとなっては大騒ぎになって、《悪魔の鏡》を探すどころではなくなってしまうだろう。


 騒ぎを起こさないために、ゼオは自分と私に遮蔽魔術を掛け、堂々と正面から神殿に入る方法を選んだ。


 中を歩きつつ、私はふと気になったことを呟いた。


「……コラール公爵、精霊女王の奴隷になって、大丈夫かな……」


 公爵である以前に国王の実弟である彼が精霊女王の奴隷になるなんて、流石に予想外だし、この国にとっても大問題だ。


「魔力と共に精も根も尽き果てるまで吸い尽くされるだろうが……あの男からは色好きの匂いがしたからな。まぁ死にはしないさ」


 吸い尽くされるという表現に、思わず卑猥な想像をしてしまってぶんぶとかぶりを振る。


「……それよりも、あの誘拐犯がエレスに心配される方が気に食わん」


 むすっと呟いたゼオ。


 え、ヤキモチ? やだ可愛い。好き。


「私が心配しているのは、一応王弟である公爵が精霊女王の奴隷になって、国は大丈夫かなってことよ」

「それでもだ。お前の口から他の男の名前が出るのは気に喰わん」

「っ……!」


 ダメだ。死ねる。キュンキュンし過ぎて心臓がもたない。


 顔を両手で押さえて悶えた私だったが、直後、嫌な気配を感じて顔を上げた。

 当然、ゼオも気付いている。


 ここは神殿だ。

 この気配は、ここにあってはいけないもの。


「……《悪魔の鏡》だ。おそらく、あの誘拐犯が遮蔽魔術を掛けて神殿に持ち込んだが、ヤエルの奴隷になったことで魔術が解けたんだろう」

「だから、持ち込んだ時点では騒ぎにならなかったのね。こんな気配が漂っていたら、少なくとも魔力を持っている人間は皆気付くでしょうし、大騒ぎになるわ」


 ゼオと私は急ぎ足でその気配を辿った。

 辿り着いたのは神殿の最奥。おそらく聖女の私室だ。


「……ここから先は力技で行く。くれぐれも気を付けろ。鏡を覗き込むな」

「わかってる。ゼオも気を付けて」

「俺を誰だと思っている?」


 ゼオは私を一瞥して、不敵に笑う。


 やだもう、好き。


 おっと、見惚れている場合じゃない。

 私はにやける顔を堪えて、身構えた。


 ゼオが部屋のドアを破壊して中に足を踏み入れた。


「っ! これが、《悪魔の鏡》の魔力……?」


 広いが余計な物の無い質素なその部屋の中は、まるで瘴気が渦巻いているかのように、暗くどんよりとしていた。


「……あれは!」


 ゼオが目を瞠る。

 部屋の奥に、セリナがいた。その手には、黒い円盤のようなものがある。


 どう見ても、既に彼女が《悪魔の鏡》を覗き込んだ後だった。


「《悪魔の鏡》……! まさか、使ったのかっ!」


 ゼオが遮蔽魔術を解除して飛び出す。

 突然現れた私達に、セリナはおもむろに顔をこちらに向ける。


 様子がおかしい。


「……ない……そんな……おかしい……私は、私が聖女なのに……どうして……どうして……私の望む光景は……こんなんじゃない……!」


 ぶつぶつと何か呟いたかと思うと、彼女は抱えていた黒いそれを頭上に掲げた。


 まずい、床に叩きつけるつもりだ。

 《悪魔の鏡》が物理的に叩きつけた程度で割れるとも思えないが、そんな事をしたら何が起きるかわかったものではない。


「馬鹿が! よせ!」


 ゼオも声を上げるが、間に合わない。


 セリナは《悪魔の鏡》を床に叩きつけた。


「っ! エレス、離れろ!」


 ゼオが私を抱き上げて部屋を飛び出す。

 直後、《悪魔の鏡》からどす黒い何かが、まるで爆発するように噴き出した。

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