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第十四章 三種の神器

 三種の神器。

 前世では確か、剣と鏡と勾玉だったかな。

 日本で作られたゲームの中だからか、この世界の三種の神器も似たようなもので、《神の剣》《悪魔の鏡》《精霊の宝玉》という魔力の籠ったアイテムを指す。


「……あの小娘、既に三種の神器の《神の剣》と《悪魔の鏡》を手に入れている。残りは一つ……」


 探知魔術でセリナの様子を覗いたらしいゼオが歯噛みする。


 ゲームの設定では、《悪魔の鏡》は魔族の支配する地域の中でもかなり深部に隠されていたはず。

 それをセリナが既に手に入れているというのは、魔王として屈辱だろう。


 しかし、セリナのあの自信満々の様子から、既に三種の神器は全て入手しているのかと思ったが、まだ一つ残っていたか。やはり彼女は詰めが甘い。


「残りの《精霊の宝玉》はどこに?」


 ゲームでは確か、精霊の谷で精霊と親しくなり、その精霊から精霊女王が困っていると聞き、その困りごとを解決したらお礼に貰える、というシナリオだった。


「精霊女王が管理しているはずだ。あの人間嫌いの性悪が、やすやすとあの小娘に渡すとも思えんが……」


 妙に引っ掛かる物言いだ。精霊女王と何やら因縁でもあるのだろうか。

 ゼオに「性悪」と断じられる精霊女王。ゲームの中では義理堅い真面目な女王だったが、違うのだろうか。気になる。


「あ、あと、魔女の種は? どのくらい集めていた?」

「ああ、それはまだ十数個だったようだが……」


 魔女の種は、ゲーム中では十個しか登場しない上に、食べる事で魔術のレベルを底上げするドーピングアイテムだ。


 使用するには制限があり、一日一個しか食べられない。それ以上食べると体が変化について行けず四肢が爆散すると言われている。

 いくらセリナでも、そこまでのリスクは侵さないだろうが、私と戦った時点がレベル三十だったとすれば、特級魔術を使うためにあと七十レベルを上げる必要がある。

 既に七十個の魔女の種を所持しているとしても、必要レベルになるためには単純計算で七十日は掛かる計算だ。


 しかし、もしあと七十日も掛かるとしたら、今のタイミングで私の前に姿など見せないだろう。


 何か秘策でもあるのだろうか。


「とにかく、今すぐ精霊の谷に行くぞ。あの精霊女王が応じるとは思えんが、こちらで預からせてもらうか、護衛を付けさせないと安心できん」

「そうね。急ぎましょう」


 ゼオの提案で、私達は大陸の北東にある精霊の谷まで転移した。

 膨大な魔力を消費するはずの転移魔術をポンポン使う魔王のチートっぷりには舌を巻くばかりだ。


「……ここが、精霊の谷?」


 目の前の光景に、私は思わずそう呟いた。


 ゲームでは、周囲は緑に溢れ細い小川が一筋流れている美しい谷だったはずだが、今目の前にあるのは、岩肌が露出してひと欠片の緑もなく、少し先は深い霧に包まれて見えない、死の谷と形容した方がしっくりくるような景色だ。


「ああ、間違いない。ここはいつ来ても変わらないな」


 懐かしそうに目を細め、ゼオは私の手を取ってずんずん進んでいく。

 と、霧に入った瞬間、ぶわりと風が舞った。


「っ!」


 何事かと思った直後、霧が晴れて、目の前にはゲームで見たのと同じ、緑あふれる美しい景色が広がっていた。


「……え?」

「さっきの光景は精霊が見せる幻影だ。ここが精霊の谷であることを知る者は少ないが、美しい景色だと人間が迷い込んで来る事があるからな。人間嫌いのアイツらしい」


 それは納得だ。これだけ美しい景色なら、一度迷い込んだ人間に見つかれば噂が起こって、その後ひっきりなしに人間がやって来るようになっても不思議はない。


「……ヤエル! いるんだろう! ちょっと来い!」


 ゼオが声を張り上げると、その数秒後、目の前に何かがふわりと舞い降りて来た。


「相変わらず煩くてむさ苦しい奴ね。だから脳筋は嫌いなのよ」


 そう言って溜め息を吐いたのは、見惚れるほどの美貌の女性だった。

 絹糸のような金髪に、大空のような淡い青の瞳、背中には蝶のような羽が生えている。

 纏っているのは体のラインが強調されるような深緑のドレスで、サイドに深いスリットが入っている。


 ゲームで見た通りのビジュアルだが、ゲームでは上半身しか画面に表示されていなかったので、まさかこんな妖艶な色香を漂わせる太腿の持ち主だとは思わなかった。

 見た目の年齢は二十代半ばくらいだけど、精霊の女王と言うからには実年齢はわからない。


 登場と同時にゼオを脳筋呼ばわりした事にカチンときたが、逆に言えば彼女はゼオを好きではないという事だと推定されるので、良しとする。これが壮大なツンデレじゃない事を祈る。


「……で? こちらの可愛らしいお嬢さんは? 人間のようだけど……ちょっと変わってるわね。嫌いじゃない匂いがする」


 値踏みするような視線で上から下まで見てくる。

 正直良い気分ではないが、今彼女の機嫌を損ねるのは得策ではないので、大人しくしておく。


「俺の花嫁だ」

「はっ? アンタ結婚したのっ? 人間とっ?」

「まだ婚約段階だ」

「そんな事はどうでも良いわ。人間を花嫁にするって本気なの?」

「ああ。エレスはこの俺を投げ飛ばしたんだ。エレスのような女は他にいない」

「投げ飛ばしたぁっ? 巨体のアンタを? 人間のこの子が? 嘘でしょ?」


 精霊女王は心底信じ難いものを見る目で私を見る。


「本当です」

「……へぇ。気に入ったわ」

「え?」


 ゼオを脳筋呼ばわりしたからには、そういう力技を使う人間も嫌いなのかと思ったが、意外とそうではないらしい。


「アタシはヤエル。当代の精霊女王よ」

「あ、エレストリア・プラテアードと申します」


 一応まだ婚約者の段階なので、カルネリアンは名乗れない。

 と、ヤエルの「気に入った」という発言で警戒したのか、ゼオが私の肩を抱いた。


 ああ、力強い腕。逞しい。好き。


 と、彼女はそんなゼオを鬱陶しそうに睨み、それから私を見た。

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