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第十三章 誘拐

 気がついた時には、見知らぬ部屋のベッドの上にいた。


 飛び起きて周囲を確認する。

 それなりにお金が掛けられていることがわかる内装、ベッドの寝心地もなかなか良い。どこかの貴族の屋敷か。


 おそらく、グラント・コラール公爵の所有している屋敷のどれかだろう。


 やられた。

 決して油断していた訳ではない。

 グラントが魔王城の防御陣を掻い潜って現れた時点で、かなり警戒していた。


 しかし、私には魔術に対する耐性はほとんどない。

 彼の動きに反応できる肉体的な瞬発力はあっても、強制的に眠らせる魔術を詠唱なしで発動させられてしまっては太刀打ちできない。


「……ゼオ、心配してるだろうな」


 呟き、ベッドから降りようとして、左足首が鎖で繋がれている事に気付く。


「……なるほどねぇ……」


 これは魔術封じの枷だ。これに繋がれている間は、魔術が使用できない。

 まぁそもそも、私には枷を外すような魔術は使えないんだけど。


 私にできるのは単調な魔術だけだ。

 中級に該当する飛翔魔術が使えるのは、おそらく前世で鍛えまくった体幹とバランス感覚のおかげだと思う。

 魔力をそのまま障壁として使用する防御魔術はさておき、攻撃魔術に関しては、使えるのが不思議なくらいだ。これも前世の感覚が為せる業なのかもしれない。


 だがそれも、生まれながらにして魔術師としての素養を持つ者に比べたら大した威力は出ない。どちらかというと、魔力をそのまま拳に込めてぶん殴る方が威力が出る。


 待てよ。

 ふと思い至って、両手を見つめる。


 この枷は魔術封じであり、()()封じではない。

 私は両手に魔力を込めて、足首の枷に指を差し入れると、左右に思い切り引っ張った。


 ガシャン、と音を立てて枷が引き千切れる。


 わお。私ってば怪力。


 自分の馬鹿力に流石に驚くが、何はともあれ足枷が外せたのは良かった。


 窓際に近寄り、外を見る。

 周囲には木しかなく、森の奥深くのようだ。別荘か何かだろうか。


「飛翔魔術でどこまで行けるかな……」


 この場所がどこだかわからないので、下手な方向に飛んで町や村に辿り着けずに力尽きるのが一番怖い。

 さて、どうしたものか。


 考えながら唸る。


 と、その時、目の前に突然、意外な人物が現れた。


「……セリナ」


 そう、彼女だ。

 ゼオによって、私への接近は禁止されたはずなのに、またこうして姿を見せるとは、と思って目を凝らすと、彼女の姿をしているが本体がここにない事がわかった。

 魔術で姿だけ投映しているようだ。


「ごきげんよう、エレストリア()


 語尾だけ妙に強調されて、まるで嫌々敬称を付けたかのような言い方だ。

 私は目を細めた。


「一体どういうつもり? 私への接近も魔術による干渉も、ゼオ……ゼフィリオに禁止されたはずだけど」

「私は貴方に接近していない。貴方に魔術を掛けたのも私じゃないわ。今はただ、貴方に言いたいことがあって分身を飛ばしているだけだもの、条約には違反しないわ」

「屁理屈ね。貴方が絡んでいる以上、ゼフィリオは貴方を許さないわ」

「あら、大丈夫よ。悪役令嬢に消えてもらった後、正規の攻略ルートを辿るから」


 ふふん、と得意気に宣言するセリナ。

 彼女は一体何を言っているのだろうか。


 どう考えても、今のこの状況はゲームのシナリオから逸脱している。

 この状況から、いくら正規の攻略ルートを踏もうとしたところで、過ぎた時間は戻らないのだし、ヒロインがゼフィリオルートに入ることは不可能だろうに。


 そこまで、考えて、嫌な予感が胸を焼いた。


「……まさか、聖女の特級魔術……?」

「あら、よく気が付いたわね。そうよ、私が特級魔術を使いこなせるようになれば、時間さえ戻せるのよ」


 聖女の特級魔術、ゲーム内で一定の経験値を積み、ある条件を達成すると、ヒロインが使える魔術に追加されるというもの。


 その特級魔術の内容は、時間の巻き戻しだ。


 ゲームで誤った選択をして進めてしまった時に、少し前のセーブデータからやり直せるという、プレイヤーには重宝する機能だった。


 それだけでなく、ゲームの仕様上隠しステージであるゼフィリオルートへ入るためには、ギャレスルートで一定の条件をクリアした状態でハッピーエンドを迎える必要がある。

 その一定の条件の中に、この特級魔術の習得が入るのだ。

 何故なら、ゼフィリオルートに入ると、召喚された直後からゲームが再スタートするからだ。ゲームのシナリオ的に『ギャレス攻略後にこの特級魔術を使用した』という設定が必要なのである。


 そしてこの世界でも、聖女の特級魔術は伝説として語られている。


 しかし、彼女の今の魔術のレべルは、到底特級魔術習得には至らないはず。

 彼女の自信の根拠はなんだろう。


 セリナを観察するように睨む。

 彼女は勝ち誇った顔のまま、ふと私の足元に視線を落とし、それからぎょっとした顔をした。


「ちょっと! どうして魔術封じの枷が外れているのよ!」

「うん? 引っ張たら外れたわ」

「引っ張った? どんな馬鹿力よ!」

「そんな事より、さっきの言い方だと、まだ特級魔術を使えるようにはなっていないのよね? 当てがあるということ?」


 話を戻すと、セリナはこほんと咳払いをした。


「ええ勿論。私が特級魔術を使えるようになるのも時間の問題よ。それじゃあね」


 私よりも悪役令嬢っぽい高笑いを響かせたかと思うと、彼女の姿はその場に掻き消えてしまった。

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